インチョーのブログ(表)( ´∀`)

「東京つばめ鍼灸」インチョーの独り言ブログ。「南北相法」の翻訳ページはこちら→http://www.varianttuning.com/index.html

未来の予約

先日、当院のウェブ予約システムが導入事例の1つとして、某社のウェブサイトにて紹介された。今後導入を検討している鍼灸師の一助となるかもしれぬので、とりあえずリンクを貼っておくことにした。

re.iqnet.co.jp

 

ウェブ予約を導入して半月が経ち、やっと登録者数が50人を超えた。まだまだ電話予約の利用者の方が遥かに多いけれど、それでも業務はかなり楽になった。患者からも便利になったと言われ、ウェブ予約を始めて本当に良かったと感じている。

 

最近は会社でも、仕事がはかどらぬとか、電話対応が面倒だとかで、メールやスマホのアプリなどでのやり取りが好まれているそうだ。会社によっては丸一日電話対応に追われ、他の仕事が全く手につかない、というケースもよくあるらしい。

 

個人経営の鍼灸院では、頻繁に施術を中断せねばならぬほど電話が鳴ると、どうにもならなくなる。さりとて受付に電話番を置いたとしても、結局は予約に関する内容だけなのに、「先生に変わってもらえませんか」と言う患者もたまにいる。

 

それと電話の音は交感神経を刺激するから、施術中は電話が鳴らぬ方が患者はリラックスできて、治療効果も上がるかもしれない。

 

患者には予約登録直後と、予約時間の2時間前に自動送信メールが届くようになっている。ゆえに、予約時間を間違えて来院する、ということが少なくなる。当院側にも、患者が何らかの予約操作を行う度にお知らせメールが届くから、紙面の予約台帳とメールで予約状況をダブルチェックできて、間違えることがほぼなくなった。

 

ウェブ予約システムでは、24時間いつでも、予約の登録、変更、キャンセル、キャンセル待ちなどの処理ができる。患者によっては仕事中や電車の移動時など、人目を憚(はばか)り通話できぬ時でも、密かにウェブ上で予約を入れることが可能だ。

 

また、単純に電話代を節約したいとか、電話で人と話すのが好きではないとか、仕事が忙しすぎて鍼灸院の営業時間中に電話予約することができないという患者にも、ウェブ予約は役立つかもしれない。

 

しかし、そうは言っても、高度成長期以前に生まれたような患者にとっては、こういう最先端の利器でも単なる废物に成り下がってしまうことがある。

 

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そういえば先月、故宮のチケット売り場はすべて看板が下ろされ、入場券はウェブ上でしか購入できないようになったようだ。

 

ウェブ上で1日あたりのチケット販売数を制限することで、入場者数をコントロールすることが目的らしい。確かにアホみたいに長い行列が解消され、ゆっくりと観覧することができると思えば良いことなのかもしれない。でも、まぁ、ウェブが使えぬ観光客は大変だろうと思う。

 

鍼灸院もウェブ予約だけにしてしまったら、さぞや楽だろうと思うが、まだまだそういうわけにもいかない。

 

しかし、ムーアの法則の如く技術革新が進んでゆけば、10年後には電話対応はAIに任せ、ウェブ予約が当たり前となり、施術に専念できるようになるかもしれない。 

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フラッシュバック

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今年も北京へ行ってきた。目的は針灸・中医関係の本の購入と、針灸用具店への顔出しだ。針灸用具は今年から微信を使って輸入しているから、わざわざ北京まで行く必要はないのだけれど、本を買うついでに針灸用具店へ手土産持参で挨拶しておくことで、ウェブ上での取引をスムーズにできている。

 

今回、こびとがHSK(汉语水平考试)の参考書を欲しいと言っていたので、とりあえず东单の図書ビルで、1~4級の単語帳と過去問を買った。私はすでに4級には受かっているが、来年あたり5級、最終的には6級を受けようと考えているので、一応5級と6級の過去問も買っておいた。ちなみに中国では、4級に合格した外国人は中国の一般的な文系国立大学への入学が許可される。北京大学清華大学などの最難関校は、5級に合格していないと入学できない。だいたい北京語言大学の本科へ入学して1~2年くらい、日本の一般的な大学で中国語を専攻して4年くらいで到達するのが4級だと言われている。6級はほぼネイティブスピーカーのレベルだ。

 

北京の本屋には、日本と違って、毎年膨大な数の針灸・中医関係の新刊が並べられる。今回で針灸の勉強に必要な中医経典や辞書類はほぼ揃えることができたから、今後は新刊や改訂版をチョコチョコ買い足すだけで済みそうだ。

 

去年あたりから店頭に並びだした「中医古籍珍本集成(湖南科学技術出版社)」は、すでに針灸推拿巻だけで15種ほどあり、黄帝内経などの医経巻も含めると数十種以上はある。とりあえず針灸推拿巻すべてと黄帝内経金匱要略傷寒論だけはこの1年で3回中国へ行き、何とか買い集めた。「实用针刀医学治疗学(人民衛生出版社)」は第2版が出ていたので、改めて買いなおした。

 

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雍和宫に行った際には、境内に併設していた土産物屋で「図解 黄帝内経」という本を見つけたので買ってみた。

 

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これは主に素人向けの内容だったが、中々良くできた本だった。日本の鍼灸学校で買わされる教科書や、日本のアヤシイ黄帝内経の注釈本を大枚はたいて買うくらいなら、68元(約1200円)出してこの本を買って読んだ方が、遥かに有意義かもしれない。鍼灸学生時代には、少なくともこれくらいの本は読んでおくべきだろうと思う。 

 

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王府井では张一元という老字号の茶屋で、おかんに頼まれていたジャスミン茶を数缶買った。老字号というのはいわゆる老舗のことで、张一元は北京では最も知られた、ジャスミン茶のシェアNO.1の店だ。確かにここのジャスミン茶は香りが素晴らしいのだが、残念ながら日本では手に入らない。

 

地下鉄で手荷物をX線に通す時、こびとがこの日本で買ったら1缶数千円は下らないと思われるジャスミン茶6缶を取り忘れたため、国貿駅から再び王府井駅へ戻ってきたわけだが、結局誰かに盗られたようで、無くなっていた。仕方なく再び张一元へ行き、同じものを6缶買いなおすことにした。私が店員のオッサンに「さっき買ったやつは駅の保安検査の時に失くした」と言うと、オッサンは西川きよしばりに目をグリグリさせて、「丢了!?(失くしたって!?)」と叫んだ。

 

だいたい北京の庶民は、未だに月に2000~3000元(約34000~51000円)程度しか稼げぬらしいから、数百元で買った茶葉を失くすのは相当な痛手なのだろう。しかし私が茶葉を買いなおすことで、オッサンの店は儲けが倍になるから、オッサンは哀れみと嬉しさが共存する複雑な心境で、「丢了!」と叫んだのかもしれないな、と思った。これを聞いたレジのオバハンは、1回目に買った時は茶缶を紙袋に無造作に詰め込んだだけだったが、2回目は茶缶をポリ袋に入れて厳重に封をしたあと、さらに紙袋に入れこして、「看好了!(気を付けてね!)」と言って手渡してくれた。

 

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张一元の紅い紙袋を持って外へ出ると、目の前を通り過ぎた2人の中国人を見て、思わず「あっ!」と叫んでしまった。我々の前を通り過ぎた70歳くらいの老婆と、その後ろを金魚の糞のようについて歩いていた50歳くらいの男は、いつも地下鉄1号線の車内で物乞いをしている2人に間違いないようだった。

 

この親子らしき2人は、毎週末になると観光客が多く利用する地下鉄1号線に乗り、車両の端から端までを練り歩いて乗客に金を無心するのであるが、その集金スタイルが異様であったため、私は数回見ただけで2人の顔をハッキリと覚えていたのだった。男は確かに、目を見開き、健常者と変わらぬ素振りで歩いていた。

 

いつも金を無心する役目は老婆だ。息子らしき男は無言のまま両目を閉じて全盲を装い、右手でアンプ付きのハーモニカを持ち、哀愁漂う音色を吹き鳴らす、という役目だ。そして左手は老婆に引かれ、あたかも母親が、全盲の哀れな息子を女手独りで養っている、というシチュエーションだ。

 

老婆の集金の仕方はかなり強引で、無視を決め込む乗客の手を無理矢理引っ張り、「どうか金を恵んでくだせぇ」と迫るのだ。慈悲心の強い外国人観光客などは、たまらず1元札やら10元札を手渡してしまうのだが、地元民は奴らが骗子(ペテン師)であることを見抜いているから、手を握られても完全無視で押し通す。上海ではこういう詐欺行為で小銭を集め、マンションを2つ買った輩がニュースになったそうだ。ちなみに、「骗子」の類義語で、最近CCTVの「今日说法」という番組でよく見かける言葉に「老赖」というのがあるが、これは借金を踏み倒す人のことで、いわば「債務者」の意味だ。

 

この日は、数日後に5年に1度の共産党大会を控えており、北京市内の警備が厳重であったせいか、いつもいるはずの物乞いを1人も見かけなかった。それゆえ、この親子も物乞いができず、当てもなく王府井を徘徊していたのかもしれない。

 

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滞在2日目は運行し始めて間もない、世界最速を謳う复兴号と名付けられた高铁(高速列車)の始発便に乗るため、北京南駅に隣接する某ホテルに泊まることになっていた。日本を経つ前に、予めCtrip(携程旅行网)という中国最大手のウェブサイトでホテルを予約しておいた。

 

しかし、当日ホテルへ行くと、フロントの男は「接待不了外宾(外国人客は受け入れられません)」の一点張りで、泊まることができなかった。結局、ホテルへ着く直前にCtripからメールが来ていたが、直前のメールなんて見ていないから、気が付かなかった。Ctripからきたメールの内容は、中国人が記した日本語にしては、よくできた文章だった。

 

「ホテル側より外国の方を接待する資格をもっていないため、ご予約を確定することができないといわれております。大変申しわけございませんが、ご予約を一旦キャンセルさせて頂きます。部屋料金はご利用のカードまでに返金致しました。また、一度お客様のご予約を確認してから、ご予約通りに部屋を提供できないことに対して、お詫び申しあげます。シートリップはお客様のお声を真摯に受け止め、サービスの改善、業務品質向上に活かし、お客様から信頼される旅行会社を目指しておりますので、今回の事態に招いて弊社の不手際について、反省の上責任を持って対応させていただきたいと考えられます。また、同じチェックイン日のホテルをご予約頂いた場合、ご宿泊後にて領収書の写真を弊社までご提供していただければ弊社より最大初日部屋料金620人民元に相当する差額をシーマネープラスの形でご利用のシートリップアカウントに弁償させて頂きます」

 

Ctripだけのことではないと思うが、大手の予約サイトであっても、中国国内のホテルをウェブ上で予約する場合、確実に外国人が泊まれるホテルを探さねばならない。しかし中国のホテルは、実際にチェックインしてみないと泊まれるかどうかわからないことがよくあるから、予め宿泊拒否をされる可能性があることを想定しておくべきかもしれない。

 

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滞在3日目は師匠一行と簋街で会食した。本当は王府井のapmにある东来顺という老舗の火鍋屋へ行こうと思っていたのだが、師匠たちが乗った飛行機が遅れて到着したため、残念ながら営業時間内に行けなかった。王府井の飲食店はどこも21~22時で閉店してしまうようだ。一方、簋街の飲食店はほぼ24時間営業だから、飛行機が遅れた場合はだいたい簋街で夕食をとることになる。師匠は久しぶりに燕京啤酒を飲めて嬉しそうだった。

 

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そうそう、中国の空港で保安検査を受ける時は、なるべく中国人や日本人が多い列に並んだ方がよいかもしれない。何故なら人種によっては身ぐるみ剥がされるかの如く、体の細部まで厳重にチェックされるケースが珍しくないからだ。実際に、アフリカ人の多い列に並んだ結果、通常なら15分くらいで保安検査を通過できるはずが1時間以上かかってしまい、飛行機に乗り遅れそうになったことがある。ちなみに中国は建前上、アフリカを一帯一路の良きパートナーとしており、「两国关系非常友好,亲如兄弟(両国の関係は親密で、兄弟のようだ)」などと公言している。

 

軽いボディチェックですんなり通される日本人を後目(しりめ)に、裸足にされて隅々までボディチェックされている人々を目の当たりにすると、実際には見たことがないのだけれど、奴隷制度があった頃のアメリカ植民地の光景がフラッシュバックするようで、何だか切ない気持ちになる。

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ウェブ予約

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最近は発狂しそうなほど忙しくなってきたので、ウェブ予約システムを取り入れることに決めた。ウェブ予約を利用する人が増えれば業務効率が上がり患者にも当院にもメリットが増えるだろうと考えている。

 

最新のウェブ予約システムは細かい設定ができる。ウェブ予約で考えられるデメリットは、ほとんど排除して構築することが可能だ。例えば予約システムの閲覧・利用は、当院で直接IDとパスワードを配布された患者だけに限定することで、なりすましなどによる恣意的な予約や、無断キャンセルの被害を未然に防ぐことができる。初診時から誰でも予約できるような状況にしてしまえば門戸が広がる反面、予約の混乱などのデメリットが拡大する可能性がある。

 

1度に予約できるコマ数や予約期間なども設定できる。キャンセル待ちしている患者には、キャンセルが出たら即時にメールを自動送信できるようになっている。予約日当日に送るべきリマインダメールも、決めた時間に自動送信することが可能だ。ちなみに、リマインダメールというのは、要するに予約時間の再確認を促すためのアラーム機能みたいなものだ。患者もリマインダメールを受け取るようになれば、予約したのをスッカリ忘れていた、なんてことも避けられる。万が一臨時休業しなくてはならなくなった時なども、登録している患者にメールを一括送信することができるから、予約者全員に電話する手間も省けるかもしれない。

 

何より患者自身がウェブ上で予約状況を確認出来れば、電話して予約が空振りに終わるということも減り、患者側も鍼灸院側も徒労に帰すことを避けられる。ウェブ上では24時間予約が可能だから、鍼灸院側としては営業時間外に電話されてイラッとすることも減るだろう。実際にウェブサイトなどで営業時間を公にしていても、知ってか知らずか、営業時間外に電話してくる患者がたまにいる。

 

ウェブ予約のシステムは予め業者によって大まかな形が構築されているが、細かい仕様は自分で作り上げるのがベストだ。初めて試すシステムだからイマイチ使い勝手がわからず遅々として作業が進まなかったが、10日ほどでほぼ完成に近づいた。早ければ来月には始動できそうな感じだが、とりあえずは試験的に導入して、様子をみてみようと考えている。

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真夜中の訪問者

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島根にいた時の話。

 

まだ松江の北京堂が某マンションの6階にあった頃の話だ。

 

その当時、私は鍼灸院で寝泊まりしていて、治療には使っていない4畳半くらいの部屋を寝床にしていた。

 

しかし、冬のある日を境に、真夜中に怪奇現象が起こるようになった。

 

毎日深夜2時を過ぎると、誰もいないのに「ピン、ポーン…、ピン、ポーン」とインターホンが2回鳴るようになったのだ。奇妙なことに、インターホンは必ず2回鳴り、1回目と2回目の間隔も、だいたい10秒と決まっていた。

 

最初の数日は半ばしか覚醒していないこともあり、隣の部屋のインターホンがなっているのであろうと無視していた。しかし、よくよく聞いてみれば、隣の部屋ではなく、自分の部屋のインターホンが鳴っていることに気が付いた。しかも、連日決まって丑三つ時に鳴るもんだから、次第に気味が悪くなった。

 

寝床は玄関を入ったすぐ右側にあり、狭い部屋の西側には外の通路に向かって出窓が付いていた。出窓にはカーテンが無かったから、夜は部屋の電気を消すと、外の通路の蛍光灯の淡い光が出窓を通して部屋の中に差し込んでくるような塩梅だった。だから消灯後に誰かが通路を通れば、人影が部屋の中をサッとかすめるから、すぐに気が付くようになっていた。

 

鍼灸院のあった部屋は606号室で、6階には607号室までしかなかった。ゆえに通常、この606号室の前の通路を夜間に通るのは、私か607号室の住民だけだった。ちなみに607号室の住民がこの通路を通る時は、その前後に必ずドアの開閉音が壁伝いに聞こえてくる。また607号室は角部屋であって、607号室の前には階段が設置されていたが、エレベーターは606号室側に設置されていたから、夜間に606号室の前を通り抜ける人は、基本的に我々以外、他にいなかった。

 

606号室の玄関からはエレベーター、階段ともに10mくらい離れていて、仮に誰かがピンポンダッシュをしたとしても、すぐにドアを開ければ、その姿を目撃することが可能なはずだった。だから毎晩インターホンが鳴りそうな時間になると、息を殺しつつ外の様子をうかがっていた。しかし、インターホンが鳴った瞬間にパッと飛び起きてドアを開けたとしても、外に誰が立っているということは1度もなかった。とにかくドアを開けるたびに背筋がゾッとして、しばらくマトモに眠れない日々が続いた。

 

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その頃は徐々に患者が増えていて、九州や四国、京阪神から来院する人がチラホラいた。未熟ながらも私は少し天狗になっていたもんだから、「とうとう亡者も私の治療を求めてやって来たのだろうか」などと、密かにカルトな思考を巡らせたりしていた。

 

インターホンは毎回鳴り方が決まっていて、「ピン、ポーン」と1度鳴ったあと、10秒くらいしてからまた「ピン、ポーン」と鳴るのだが、その鳴らし方がいかにも生身の人間的で、あたかも「中の様子を伺いつつ2回目を押す」というような具合だったもんだから、余計に気味が悪かった。

 

そんな日が何日か続いたあと、インターホンが鳴る日と鳴らない日がくるようになった。まったく奇怪なことだと思ったが、おそらくこれは魑魅魍魎の類によるものではなく、何か物理的な要因があるのではないかと考えるようになった。

 

このマンションがある松江市中心部は、沿岸部からは離れているものの、日本海に面しているため冬場は海風が強く、雪が降ると吹雪くことも珍しくなかった。インターホンが鳴るのは、決まって吹雪いた次の日で、しかも日中晴れた日の夜だった。どうやら晴れた日が続くと、インターホンは鳴らなくなるようだった。

 

606号室の玄関は西向きであったが、宍道湖方面からの風がマトモに吹きつけるような構造になっていて、吹雪けばインターホンの上に雪が積もる、ということがしばしばあった。

 

もしやこれはと思い、ある吹雪いた日の翌日、インターホンの上に積もっていた雪を除(の)けておいてみることにした。すると、その日は日中晴れていたにも関わらず、いつもの時間を過ぎても、インターホンが鳴ることはなかった。きっと、インターホンの上に積もっていた雪が日光で溶けて水滴が内部に侵入し、うまいこと通電してインターホンが鳴っていたのだろうな、と考えた。

 

よくよく観察してみると、インターホンと壁の隙間を埋めていたシーリング剤には、経年劣化ゆえか肉眼では確認しがたいくらいの小さな亀裂がみられた。結局、その日のうちにマンションの管理人に業者を呼んでもらい、劣化したシーリング剤の隙間を埋めてもらった。

 

それ以来、吹雪いた日の翌日に太陽が顔を出しても、インターホンが鳴ることは無くなった。島根の風と太陽は侮れないな、と思った。いや、本当に侮れないのは、望んでもいないサプライズを与えてくれる、オンボロビルディングだろうか。

 

これで私はイソップ物語の如き日々から平穏な夜を取り戻し、安眠できるようになったわけだが、その後しばらくは、後味のよくない夢を見たような気分が続いた。

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温泉

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島根にいた頃は、温泉へ行くのが楽しみの1つだった。全てではないけれど、松江から江津あたりまでの有名どころの温泉には、ほとんど行った。特に温泉津(ゆのつ)温泉の薬師湯や、江津(ごうつ)の有福温泉は、独特の泉質でお気に入りだった。しかし、何せ松江から江津までは車で往復6時間くらいはかかったから、たまにしか行けなかった。

 

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特に好んで行ったのは、平田市にある「ゆらり」という温泉だった。松江から車で40分くらいの場所にある、源泉かけ流しの温泉だ。

 

ゆらりの清潔感、サービス、雰囲気などに関しては東京では珍しくない感じだったけれど、このあたりでは群を抜いていた。毎分200リットルと湯量が豊富で、中国地方で最大級の温泉ではあったが、僻地にあるためか平日は空いていることが多かった。特に平日の昼間は、ズーズー弁でしゃべる、年老いたお馴染みの地元民がパラパラと集まるくらいだったから、のんびりと湯船に浸かることができた。また、地下水をくみ上げているという、ひゃっこい水風呂と、休憩所にファミリー製マッサージ機があったのも、ここへ通う大きな動機の1つだった。

 

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松江市からゆらりのある平田市までは、宍道湖北側の湖北線をひたすら西へ走れば辿り着ける。出雲大社で有名な、出雲市の手前にあるのが平田市だ。平日だと交通量は少なかったから、アクセルは開けっ放しで走れて、そんなに遠くは感じなかった。猛烈な台風の時は、道路まであふれ出した湖水によって宍道湖に車が呑み込まれそうになったこともあったけれど、健康維持のためと自分に言い聞かせ、週3回くらいは通い続けた。確かに温泉に入って温冷浴をしたり、定期的にマッサージチェアを使っていると、体調が大きく崩れるということはなかった。島根にいた頃は早く東京へ戻りたいと思うことが多かったけれど、年をとってくると、東京であくせく働くよりも、田舎でのんびり過ごした方が健康には良いのかな、なんて考えたりする。

 

そういえば、フォーゲルパーク手前にあった某鰻屋は地元民からも人気で、1度食べてみたが、確かに美味かった。しかし島根で食べた鰻の中では、高津川でとれた天然の鰻が一番美味かった。ちなみに、高津川四万十川などと並び、かつて日本一の清流と呼ばれた川だ。天然の鰻は本当に胸が黄色味を帯びていて、「むなき(胸黄)→うなき→うなぎ」になったという語源の話も何となく頷けた。当時、高津川の鰻は「シルクウェイにちはら」という道の駅で冷凍したものが売られていたのだが、冷凍でも十分に美味かった。鰻も鮎も、天然モノは年々数が減っているそうだが、まだあの冷凍鰻は売っているのだろうか。

 

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仕事が早く終わった日は、ゆらりへ行く前に、ラピタというスーパーへ寄ることが多かった。地元産の新鮮な野菜やら、農家の人々が作った漬物や餅などを売っているコーナーがあり、そこを物色するのがこのスーパーでの唯一の楽しみだった。

 

いつものように野菜を物色していた時、突然見知らぬ地元民らしきお婆さんに、「お母さんは元気かね‥‥」と話しかけられたことがあった。お婆さんはかなり訛っていたので、おおかた何を言っているかわからなかった。しばらく黙って話を聞いていたが、お婆さんは私が別人であることに気が付き、「〇〇の孫に良く似ていたもんだから間違えた」と言って会話が終了した。

 

出雲弁といっても島根の東と西では、かなりの違いがあるようだ。特に平田市は東北弁のような、いわゆるズーズー弁で、儘(まま)聞き取れないことがあった。

 

かつて、ウラジオストックで島根産と東北産の黒曜石が出土したため、「出雲人と東北人はウラジオストックに起源がある」と主張した学者がいた。確かに1000キロ以上も離れた場所で、局所的に同じような方言が残っているのは真に奇妙な話だ。何より隣に位置する松江や出雲と、言葉が全く似ていないというのが不可解だ。さらに平田市あたりの言葉は、日本書紀古事記やらに出てくる古い日本語と似ているらしく、日本語の起源は島根にあったという話もある。しかし、まぁ、こういう事に関して私は門外漢であるから、真相はよくわからぬ。

 

ゆらりの温泉は微かに硫黄臭がするものの、無色透明のアルカリ性単純泉で、比較的なめらかな泉質だった。源泉そのままでも十分に良かったが、ゆずが湯船に浮いている時は、最高に良かった。

 

ゆらりには3年あまり通い続けたが、ゆずが入っていたのは1度きりだった。これまで様々な温泉へ行ったけれど、ほのかなゆずの香りと、摺木山から流れ出ているという優しい温泉のマッチングは、中々絶妙だった。

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しまね

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島根にいた頃、フロッグマンの「鷹の爪」というフラッシュアニメが流行り出した。「鷹の爪」は、随所で島根を皮肉るという奇抜なアニメーションであったが、あまり島根県民は関心がないようだった。

 

日本銀行松江支店の跡地はカラコロ工房というエリアになっていて、松江で唯一、フロッグマンのグッズを扱う店があった。私が初めて訪れた時はガラガラで、正直ここは大丈夫なんかいな、と思うほど閑散としていた。カラコロ工房の中はそれぞれ店舗ごとのブースに区分けされていて、パッとみた雰囲気は高校時代の学園祭のようであった。

 

とりあえず、フロッグマングッズを扱う店に入ることにした。店主らしき50代くらいの御婦人は、私が入店すると大そう嬉しそうにして、鷹の爪グッズを色々と勧めてきた。ちょっと覗くだけのつもりだったが、結局ステッカーやキーホルダー、フェイスタオルなどを買うことになった。店主は色々買ってもらえて嬉しかったのか、帰り際に「どこからも遠い町、島根県」と記されたポケットティッシュをくれた。私はこれを見て、フロッグマンは中々面白いことを言うな、と思った。

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綿と串

f:id:tokyotsubamezhenjiu:20170524111115j:plain北京では春になると、街中にたくさんの胞子が舞う。一見すると雪が降っているかのようにも見えるが、少し観察すれば雪ではないことがわかる。最近、これを「中国特有の汚染物質だ!」と騒ぐ人や、果てには「中国の大気汚染は深刻である!」とか、「中国に行く奴はアホだ!」とか叫ぶ人もいるようだ。無知は恐ろしいことだと思うけれども、ネットやメディアが過剰に発達した情報過多な現代では、もはや真実を見分けること自体が難しくなっているのかもしれない。 

 

日本の報道では、中国は常に大気汚染に曝されているようなイメージだ。しかし年間を通してみると、実際にマスクが必要となるのは半年間くらいだと思う。例えば北京では、11月半ば~3月頃はセントラルヒーティングが作動したり石炭の消費量が増えるから、汚染が重度になりやすい。この時期はN95マスクなど、本格的なマスクがあった方が良い。

 

4月は街路樹であるエンジュやヤナギなどの胞子が市内を大量に飛び回るし、5月は西北から黄砂が飛来するから、この時期にもマスクが必要だ。6~11月前半くらいはマスクがなくても過ごしやすい日が多い。北京を観光するなら7~10月くらいが無難だが、夏はジリジリと暑いし、光化学スモッグが発生する日もあるだろうから、10月くらいが北京のベストシーズンと言えるかもしれない。中国は基本的に黄土で雨が少なく、空気が乾燥しているし、寒暖の差も比較的大きいから、東京のように年間を通して過ごしやすいということはあまりない。 

 

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北京市内には、胡同を中心に沢山の街路樹が植えられている。主に植えられているのは北京市の市樹に指定されている槐树(huaishu、エンジュ)や杨树(yangshu、ハコヤナギ)、柳树(liushu、ヤナギ)だそうだ。これらの木が春に飛ばす、白い綿状の種子のことは杨花(yanghua)とか柳絮(liuxu)と言う。「絮(xu)」というのは綿毛のことだ。ちなみに、柳絮が舞うことを中国語では柳絮飘と言う。 

 

北京市では1980年頃から杨柳の植樹が開始され、現在ではハコヤナギは約350万本、ヤナギは約150万本も植えられているそうだ。近年、成熟段階に至った木々が次々と綿状の種子を飛ばすようになり、市民の生活を脅かすようになってきた。そんなわけで、市民の悩みのタネとなっている飞絮问题を解決すべく、北京市は杨柳飞絮抑制剂として、2009年頃から、雌株に綿毛を抑制する薬液である 「抑花一号」 を注射するようになったらしい。要するに種子の発生を抑える、木の避妊手術みたいなモノだ。

 

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しかし、本当に綿毛の舞う量が減っているのかは謎だ。実際に、今でも春に北京市内を歩いていると、口や鼻の穴へ綿毛が飛び込んでくるくらい酷い。特に街路樹の多い胡同では柳絮地獄となる日もあって、マスクがないと外では会話ができぬし、出歩くのも嫌になるくらいだ。

 

そうは言っても、中国の北方では緑化の一環として木が必要だから、伐採することはできないらしい。特に、ヤナギの類は黄土でも育ちやすく、緑化以外にも防砂、防風の役目も果たし、家畜のエサとしても利用できるため、中国では古くから、広く植林が進められてきたそうだ。貧しい農家では、ヤナギの葉を食べて飢えをしのいだという話もあるから、一応人間の食糧にもなるらしい。

 

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そんなわけで、柳絮に関しては不快だったけれど、今年は念願の長城へ行けて良かった。日程の都合で八达岭长城にしか行けなかったが、良い思い出になった。2016年11月以降、S2線の始発駅は北京北駅から、黄土店駅へ変更になったようだ。一卡通も使えるし、八达岭へのアクセスは随分と良くなった。

 

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八达岭熊乐园側の登城入口の横で売られていた羊肉串(yang rou chuan)は、北京市中心部で売られているモノよりもずっと美味しかった。羊肉串は文字通り、羊肉を串刺しにして焼き、孜然(クミン)や辣椒(唐辛子)をふりかけた、焼き鳥みたいなモノだ。元々はウイグル族が食べていたらしいが、現在では北京の至る所で売られている。正直、世界遺産である長城は1度行けば良いかな、という感じだったけれど、この羊肉串はまた食べてみたいな、と思った。それが何かはわからないけれども、美味い羊肉串には人を病みつきにさせる、独特の風味がある。

 

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