東京つばめ鍼灸院長のブログ( ´∀`)

完全無所属、無宗教、東京つばめ鍼灸院長が不定期に更新中。

子午流注について

子午流注は古代中国を起源とする、十二時辰(十二刻限)における十二経脈運行の盛衰について説かれた、取穴法の一学説である。人体の気血は経脈中を流れる時、時間の変化に伴い、その盛衰開闔にも変化を生ずる。そのため、十二経脈の五輸穴を基礎とし、組み合わせ日、時の十干、十二支陰陽(消長と転化)を考慮した上で、何月何日の何時にどの穴位を取穴すべきかを決定する。古代中国では、人は天地と不可分な存在であり、自然の一部であると考えていたため、「順応天時(自然の法則に従うこと)」を重要視し、一日を十二時辰に分類していた。十二経脈および各臓器には、十二時辰に対応した盛衰があり、時辰と臓器の関係を正しく理解することが養生の要である。

※子午流注…「子午」は十二支の最初と最後を示しているが、本来の意味は「始まりと終わり」である。つまり、ギリシャ文字の「ΑΩ」や、英字の「A to Z」と同様に「永遠」や「再生」を暗示している。「流注」は「流れ注ぐ」の意。

※盛衰開闔…「開闔」は「開閉」と同義。

 

1:丑時(01∶00~03∶00)

気血が肝経に流れ込む時間帯である。肝の働きが旺盛となり、肝血が新生される。肝臓はこの時間帯に解毒と排泄能力が最大となるため、身体は睡眠状態にしておくことで、肝臓の代謝を全うさせ、肝胆を養うことができる。『黄帝内経素問・五蔵生成篇』には「人卧血归于肝(人は休息することで肝に血が戻る)」とあり、肝を養うためにはこの時間帯に熟睡しておくことが重要である。人の思考と行動は肝血の如何によるところが大きく、古い血を回収し、血液を新生させることで、脳と身体を活性化させ、肝臓病を防ぐことができる。 血は陰に属し、斂蔵を主る。「丑」と「牛」は同義であり、この時間帯に発生する気は比較的強いが、気は上昇するのみで下降はできず、収斂を制限することによって肝胆の機能が最良となる。「丑」は「手」の象形であり、何かを掴もうとしているが寒さで掴めない手の形を表している。また、肝は「将軍の官」であり、勇敢で戦いに強いだけでなく、出撃には常に慎重である。「丑」は十二月に応じる。

 

2:寅時(03∶00~05∶00)

気血が肺経に流れ込む時間帯である。『黄帝内経素問・経脈別論篇』に「肺朝百脉(すべての経脈は肺に通じている)」と記されているとおり、肺の働きが旺盛となり、肝に貯蔵されていた新鮮な血液が百脈(全身の経脈)へ運ばれ、新たな一日を迎える。重病人が危篤となりやすい時間帯であり、患者は往々にしてこの時間帯に死を迎える。徹夜せざるを得ない場合は、この時間帯を超えないようにした方が良い。古代中国における「正月建寅」と「肺経」は共に「始まり」の意味があり、「陽気の始まり」、「人の活動の始まり」を示す。寅時は身体の各部位が静から動に転じ始めるため、各部における気血の要求量が増加し始める。そのため、「相傅の官」は「宣発」と「粛降」を主るが、上手く機能しなければ心臓の負担が増加する。実際、心疾患患者は深夜3~4時に死亡することが多い。老人がこの時間帯に目覚めやすいのは、気血量が不足しているからである。ゆえに、心機能が衰えている者は極端な早起きを避けるのが無難である。「寅」は一月に応じる。

※正月建寅…陰暦における1月のこと。寅月、正月、建寅、正月建寅はすべて同義。

※相傅の官…「傅」は補助、「相」は宰相の意。朝廷中の宰相に例え、君主を補佐する役割がある。肺が心臓の左右で心臓の機能を補助する様子を例えた言葉である。

 

3:卯時(05∶00~07∶00)

気血が大腸経に流れ込む時間帯である。大腸の働きが旺盛となり、排泄しやすくなる。起床に最も適した時間帯で、起床後すぐに白湯を飲めば、大腸が適度に刺激され、便や毒素が排出されやすくなる。肺と大腸は表裏関係にあり、肺気が十分でないと大便が排出されない。そのため、中医は患者に「二便(大小便)」について問診することがあるが、これは表裏関係にある心肺機能の如何を調べることに役立つ。例えば、心血が旺盛であれば、大便は太く長いが、衰えていれば、細く短い便となる。つまり、心肺機能と排便機能は相関関係にあり、軽度な便秘に下剤を用いた場合、人体の原気(元気)を著しく消耗する可能性がある。「卯」は二月に応じる。

 

4:辰時(07∶00~09∶00)

気血が胃経に流れ込む時間帯である。胃の働きが旺盛となり、消化しやすくなる。朝食に適した時間帯で、朝食では1日に摂取すべき栄養の30~50%を摂るようにすると良い。辰時は今まさに小さな陽気が大きくなろうとしている刻限である。胃は「後天の本(気血生化の源)」であり、質の良い朝食習慣を身に付けなければ陽気が正常に育まれず、胆汁が新生されないなど、身体は大きな障害を受けることになる。また、胃経の異常は胃痛の他、脛や膝の痛み、吹き出物として現れることがある。自然の法則に従って食事をし、睡眠をとっていれば、病気になりにくい。現代人は夕食を豪華にし、朝食と昼食を軽視しているため、胃を壊しやすいのである。「辰」は三月に応じる。

※後天の本…脾または脾胃のこと。「本」は根源、源、中心の意。人は出生後、外界から飲食物などを取り入れて栄養とし、生命活動を維持している。後天的に摂取された「水(飲み物)」や「谷(穀物)」が脾胃で消化されることで、後天の精(水谷の精)となり、気、血、津液に変化して全身に運ばれ、栄養となる。

 

5:巳時(09∶00~11∶00)

気血が脾経に流れ込む時間帯である。脾の働きが旺盛となり、栄養を吸収しやすくなる。中医学では、脾は「後天の本(気血生化の源)」であり、「運化(食物の消化と輸送)」を主る。それゆえ、朝食をしっかりと食べることで脾胃が健全化し、栄養の消化および吸収が正常化される。脾が健全であれば筋肉が発達するが、脾に異常がある場合は痩せたり、よだれが出たり、水腫となる。「巳」は四月に相当し、陰気が陽気に取って代わり、木々が青々と茂りつつある様子を表している。脳が最も活性化する時間帯であり、仕事や勉強をする時間として最適である。

 

6:午時(11∶00~13∶00)

気血が心経に流れ込む時間帯である。心の働きが旺盛となり、全身に血液が循環しやすくなる。この時間帯はゆったりと昼食をとり、食後は眼を閉じて静かに座ったり、10分ほど仮眠すると良い。午時は陰気が生まれ、陰陽が互いに交わり、陰気と陽気が入れ替わる時間帯であり、人体における天地の気の転換点である。心は太陽、腎は太陰で、心中の陰は真陰、腎中の陽は真陽である。また、心は君主の官、陽中の太陽であり、上焦(上半身)にあり、火の臓器である。腎は作強の官、陰中の太陰であり、下焦(下半身)にあり、水の臓器である。つまり、心と腎は対立関係にあるが、協力関係にもあり、共同で人体の陰陽平衡を維持している。これを心腎相交または水火相済と呼ぶ。中医学では、心と腎が互いに協調し、心腎が共に健全であることが、全身の陰陽平衡における要であるとしている。脾胃や肝肺は、主に心腎相交を補助している。陰陽交感(陰陽が互いに交わる様子)については『黄帝内経素問・陰陽応象大論』に「地气上为云,天气下为雨,雨出地气,云出天气(地の気が上昇して雲となり、天の気が下降して雨となり、雨から地の気が生じ、雲から天の気が生じる)」とある。これを心腎相交に例えれば、心陽は腎陰の求めに応じて下降し、腎水が冷えすぎないよう腎水を暖め、腎陰は心陽の求めに応じて上昇し、心火が熱くなりすぎないよう心火を冷やす。また、子時と午時は共に心腎相交(陰陽が交わる)時間であるため、子時は十分な睡眠をとり、午時は仮眠など軽い休息をとることで、精、気、神を十分に養うことができる。「午」は五月に応じる。

 

7:未時(13∶00~15∶00)

気血が小腸経に流れ込む時間帯である。小腸の働きが旺盛となり、栄養を吸収しやすくなる。心と小腸は表裏関係にあるため、心疾患の症状が先に小腸経に現れる場合がある。小腸経の異常は下痢、消化不良、頸部痛、頭痛、耳鳴り、リウマチ、下腹部膨満感、下腹部痛、多汗、便秘、肝斑(顔面部のシミ)として現れやすい。「未」は六月に応じる。

 

8:申時(15∶00~17∶00)

申時は陽気が減少、陰気が増加し、気血が膀胱経に流れ込む時間帯である。膀胱の働きが旺盛となり、小腸から流れてきた水分や全身の火気(熱)を排泄しやすくなる。膀胱経は足太陽の脈で、前頭部から頭頂部を通過するため、気虚(正気の不足)または気実(邪気の過剰)となれば、記憶障害や判断力低下、意識障害(傾眠傾向)、前後頭部痛、眼、耳、鼻の異常などが起こりやすくなる。中国には「朝而受业,夕而习复(朝に授業を受けて、夕方に復習する)」という格言がある。膀胱経が活発になれば、気血が脳へ循環しやすくなるため、健康な人はこの時間帯に勉強をしたり、読書をすることで、学習効率を高めたり、記憶を定着させやすくなる。また、太陽の脈は気化を主るため、白湯などぬるめの水分を多く摂取したり、水分量の多い果物を少し食べることで、膀胱の排毒機能を高めることができる。「申」は七月に応じる。

 

9:酉時(17∶00~19∶00)

気血が腎経に流れ込む時間帯である。腎の働きが旺盛となり、臓器が作り出した一日分の精気を腎に貯蔵しやすくなる。腎は本来は原気(元気)を貯蔵する臓器である。「酉」は「実る、成熟する」の意味で、八月に応じる。卯時(5~7時)を一日あるいは一年の始まりであるとすれば、酉時(17~19時)は一日あるいは一年の終わりである。したがって、この時間帯は一年の内の収穫時期に相当し、腎を養う最適な時間である。この時間帯に微熱が出る場合は腎の精気貯蔵機能に問題がある。特に青春期あるいは新婚の男性は房事における注意が必要である。

 

10:戌時(19∶00~21∶00)

気血が心包経に流れ込む時間帯である。心包の働きが旺盛となり、心の働きが今一度高まりやすくなる。相生関係(心火生胃土)により、消化能力も高まりやすくなる。心包とは、いわば心臓外膜組織であり、主に心臓を保護し、心臓の圧力を減少させ、脳を睡眠状態へ導く作用がある。基本的に、心は心包に護られているため、邪気の影響を受けにくい構造になっている。先に邪気の影響を受けるのは心包である。したがって、心疾患の前兆は心包経の異常として現れることが多い。手の中指に異常を感じれば心包経、手の小指に異常を感じれば心経、手の親指に異常を感じれば肺経を治療する。この時間帯は陽気が陰に取り込まれ、陰気が最大となる。心包経に属する膻中は喜びや楽しみを主るため、この時間は心穏やかに、楽しく過ごすのがよい。「戌」は九月に応じる。

 

11:亥時(21∶00~23∶00)

気血が三焦経に流れ込む時間帯である。三焦の働きが旺盛となる。「三焦通百脉(三焦は全身の経脈に通ずる)」という格言があるとおり、全身を休息させるため、就寝すべき時間帯である。百歳を超える老人は、概して21時前には眠りにつくものである。三焦の「焦」の上部「隹」は尾の短い小鳥を表し、下部「灬」は火を表し、小鳥が火であぶられている様子を示している。「不温不火(冷え過ぎず、温めすぎず)」という言葉のとおり、三焦には小さな火で体を一定の温度に保温しておく作用がある。また、三焦には身体の上(横隔膜より上で心、肺を含む)、中(横隔膜下から臍上までで脾、胃を含む)、下(臍から下で肝、腎、大小腸、膀胱を含む)を区分する概念があり、その働きは主に原気(元気)を全身に送ることと、水液の通りを良くすることである。これがつまりは「三焦通百脉」と呼ばれる所以である。『説文解字』においては、「一」は始まり、「亥」は終わりを表す。甲骨文字においては、「亥」は男性が妊娠した女性を抱擁している様子を意味しており、陰気が陽気に転じ、大地が再び微弱な命を生み出さんとしている様子を表している。それゆえ、この時間帯に眠ることで、身体中の細胞が新生しやすくなる。「亥」は十月に応じる。

 

12:子時(23∶00~01∶00)

今日と明日の臨界点であり、子時は「子夜」、「中夜」、「人時」とも称する。陽気が徐々に増え、気血が胆経に流れ込む時間帯である。胆の働きが旺盛となり、胆汁が新生される。中医理論においては、気は常に体内での昇降と出入を繰り返しており、この昇降出入に異常を来すことで、臓腑経絡の機能活動に乱れが生じ、病気になると考えている。明代の医学家であった張介宾の「子后则气生,午后则气降(子時に気が生まれ、午時に気が下がる)」という言葉や、『黄帝内経素問・六節蔵象論』の「凡十一脏,取决于胆也(以上十一臓器すべての機能が発揮されるか否かは、胆の陽気上昇の如何によって決まる)」という言葉のとおり、子時はいわば春であり、陽気が養われて上昇し、万物が芽吹く時であり、胆の陽気上昇がなければ、すべての臓器に陽気が至らず、陰陽平衡が崩れ、全身の不調を招く可能性がある。睡眠と寿命は密接な関係にあり、23時前までに就寝することで、陽気が養われ、全身へ陽気が循環し、長寿となる。「胆有多清,脑有多清(胆嚢の代謝が正常であれば、脳の状態は明晰である)」という格言があるとおり、23時前に寝る習慣がある者は顔色の血色が良く、頭脳明晰であるが、徹夜する習慣がある者は顔の血色が悪く、頭の働きが鈍い。「子」は「鼠」の意があり、鼠が活発に動き出す様子や、小さな陽気が活発となりつつある様子を表している。「子」は十一月に応じる。