東京つばめ鍼灸院長のブログ( ´∀`)

完全無所属、無宗教、東京つばめ鍼灸院長が不定期に更新中。

SUDs (Single-use medical devices)再使用のリスク

単回使用を条件として薬事法で承認された医療用具は、SUDs (Single-use medical devices)とも称され、添付文書には必ず「再使用禁止」と明記されている。

 

したがって、再使用した医療用具が原因となって医療事故が発生した場合は、使用者が薬事法違反または医療法違反となる可能性がある。

 

また、添付文書などで再使用禁止の旨を明示しているにも関わらず、使用者が添付文書に従わずに、その医療用具を再使用して事故を起こした場合は、その使用者に製造物責任が生じる可能性もある。

 

医療機関や鍼灸院などで再滅菌(再生処理)を施し、出荷時と同等の品質(EO処理した状態)を確保することは不可能に等しいとされている。

 

例えば、複数のパーツから構成される医療用具は、接合部に凹凸部があり、形状が複雑になるほど、確実な洗浄、滅菌は困難となる。

 

さらに、安定した滅菌水の確保、洗浄水の水質管理、発熱性物質の除去、コーティング材除去による機能の喪失、無菌性の実証、再生処理による材質の軟化や劣化、滅菌不良による感染リスクなど、様々な問題がある。

 

それゆえ、日本鍼灸界でも1990年代からSUDsが普及し始めて、現在販売されている鍼のほとんどはディスポ鍼になっている。

 

しかしながら、日本鍼灸界では未だ再使用可能鍼が流通している影響もあり、一部の鍼灸師は「キープ鍼」などと称して、単回使用指定されたディスポ鍼を何年も使い続けているケースが少なからず散見される。酷い実例を挙げれば、SUDsを複数回または明らかな破損がみられるまで数十回以上にわたり(場合によっては何年も)、再使用しているケースもある。

 

鍼は、医療機器分類においては最も細い医療用具であり、単回使用指定されているディスポ鍼を再滅菌して使い続けることは、細菌感染ばかりでなく、折鍼のリスクも極めて高い。たとえ、ステンレス鍼であっても、オートクレーブの高圧蒸気や洗浄薬剤などによって、材質強度の低下や腐食は容易に起こり得る。ステンレスは目視で破損や錆びがないように見えても、顕微鏡で拡大すると、その変性が露呈することがある。

 

そもそも、SUDsは医療や患者に対する安全確保のために開発されたものである。各鍼灸団体はSUDsの再使用によるリスクを学会や会報などを通じて周知させ、SUDsの再使用を推奨、常態化させている鍼灸師を厳格に取り締まるべきだが、未だに業界は旧態依然の様を呈している。

 

物価高の影響もあり、一部の鍼灸師においては、固定費のさらなる増加などを理由に、より頑なにディスポ鍼の再使用を止めようとしない状況が続いている。固定費が上がるのであれば、施術費に転嫁し、まずは安全な施術環境を優先的に確保すべきである。

 

しかしながら、私がこの業界に入った15年前と比べてみても、現況はほとんど変化がみられないように感じられる。

【黄帝内経・霊枢・経筋第十三(中国語原文・日本語注釈・日本語翻訳)】

 近代以降、日本で出版された黄帝内経の翻訳書、注釈書、研究書などの関連書籍は、その翻訳の精度や、専門性、正確性に欠けるものが極めて多い。また、著者の思い込みや勘違いによる原文の改変や削除、誤訳、極端な意訳等によって、原文本来の語義がほぼ完全に失われている書籍も多い。現在に至ってもなお、鍼灸の研究や臨床応用に適した書籍が少なく、誤った情報が共有され続けている。

 そのため、黄帝内経のうちの一篇のみではあるが、現代においても有用な『霊枢・経筋篇第十三』を可能な限り正確に翻訳し、読者の研究や臨床応用に耐えうる注釈を付して、ここに公開することにした。なお、原文の断句法に関しては、中国で著名な各研究者の文献を比較し、最も適切と推察される位置に標点符号を付した。

 

1【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・足太陽経筋(原文)】

足太陽之筋,起於足小指,上結於踝,邪上結於膝; 其下循足外踝,結於踵,上循跟,結於膕; 其別者,結於踹外,上膕中内廉,與膕中并上結於臀,上挟脊上項; 其支者,別入結於舌本; 其直者,結於枕骨,上頭下顔,結於鼻; 其支者,爲目上網,下結於頄; 其支者,從腋後外廉,結於肩髃; 其支者,入腋下,上出缺盆,上結於完骨; 其支者,出缺盆,邪上出於頄。其病(足太陽之筋病)小指支,跟腫痛,膕攣,脊反折,項筋急,肩不舉,腋支,缺盆中紐痛,不可左右搖。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰仲春痹也。

※邪:『鍼灸甲乙経』には「斜」とある。

※上頭下顔:『鍼灸甲乙経』には「上頭下額」とある。

※爲目上網:『医部全録』には「網」が「綱」と記されている。

※踹:「腓腹筋」の意味。

※膕:「膕窩」の略。「膝窩」の意味。

※内廉‌:「内側」の意味。

※小指支:「小指」は「足の第5趾」、「支」は「引っ張られる、引き攣る」の意味。

※反折:「反向折叠」の略。「逆反りになる」の意味。

※仲春痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「仲」は「第二の」の意味で、「仲春」は春期を三期に細分化した期中、つまり、旧暦二月に相当する。この時期に発症する痹証を仲春痹と称した。

 

【現代語訳】

足太陽経の経筋は、足の第5趾爪甲外側に始まり、上行して足の外果で帯状に密集して付着し、斜めに上行して膝で帯状に密集して付着する。そのあと、下行して足の外果を通過して踵で帯状に密集して付着し、アキレス腱を上行して膝窩で帯状に密集して付着する。その支筋は腓腹筋外側で帯状に密集して付着し、膝窩内側を上行して、膝窩の支筋は共に上行して、臀部で帯状に密集して付着し、夾脊両側を上行して頚部へ入り、頚部から出た支筋は舌根で帯状に密集して付着する。その支筋でまっすぐ上行するものは、枕骨(後頭骨)で帯状に密集して付着し、再び上行して頭頂部を通過し、額を下行して、鼻の側方で帯状に密集して付着する。鼻から出た支筋は眼の周囲を網状に上行し、再び下行して頬で帯状に密集して付着する。その支筋は、腋窩後部の外側から肩髃で帯状に密集して付着する。その支筋は腋窩に入って下行したあと、上行して缺盆を出て、再び上行して完骨(乳様突起後部)で帯状に密集して付着する。その支筋は缺盆を出て、斜め上行して頬へ至る。足太陽経の経筋病は、足の第5趾の引き攣り、踵の腫脹痛、膝窩の引き攣り、脊椎後弯(猫背)、頸部の引き攣り、肩が挙げられない症状、腋窩の引き攣り、缺盆(鎖骨上窩中央)の絞扼痛、肩を左右に動かせない症状が生じる。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は仲春痹と称する。

 

2【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・足少陽経筋(原文)】

足少陽之筋,起於小指次指,上結外踝,上循脛外廉,結於膝外廉; 其支者,别起外輔骨,上走髀,前者結於伏兔之上,後者結於尻; 其直者,上乗䏚季脇,上走腋前廉,繫於膺乳,結於缺盆; 直者,上出腋,貫缺盆,出太陽之前,循耳後,上額角,交巅上,下走頷,上結於頄; 支者,結於目眥(眦)爲外維。其病(足少陽之筋病)小指次指支轉筋,引膝外轉筋,膝不可屈伸,膕筋急,前引髀,後引尻,卽上乗䏚季脇痛,上引缺盆,膺乳,頸維筋急。從左之右,右目不開,上過右角,并蹻脉而行,左絡於右,故傷左角,右足不用,命曰維筋相交。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰孟春痹也。

※輔骨:腓骨または脛骨、橈骨のこと。この文脈では「腓骨」の意味。

※䏚:側胸部下端、下肋部、側腹部を含み、第10肋骨下端から腸骨稜中間線上端までの部位。『黄帝内経太素』には「䏚,季脇下也。(䏚は季肋下と同義である)」とある。

※交巅上:「巅」は「巅頂(頭頂)」をさし、「交」は対側または同側にある経筋が互いに交わっている様子を表している。

※頷:「下顎」の意味。

※頄:「顴骨(頬部)」の意味。

※目眥(眦):「目尻」の意味。

※外維:眼球と瞼の運動を維持する、眼球外側(周囲)の構造のこと。

※維筋相交:経筋が左右で交差していることにより、左側の傷害が右側の傷害として現れるような現象をさす言葉。

※孟春痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「孟」は「第一の」の意味で、「孟春」は春期を三期に細分化した期初、つまり、旧暦一月(正月)に相当する。この時期に発症する痹証を孟春痹と称した。

 

【現代語訳】

足少陽経の経筋は、足の第4趾尖端に始まり、上行して外果で帯状に密集して付着する。その後、上行して脛骨外側を通過して、膝の外側で帯状に密集して付着する。その支筋は腓骨の外側から始まり、上行して大腿外側を通過し、前面を上行する支筋は伏兔(大腿四頭筋部)で帯状に密集して付着し、後面を上行する支筋は尾骶骨で帯状に密集して付着する。また、まっすぐ上行する支筋は、側腹部から季肋部を通過したあと、再び上行して腋窩前方を通過し、胸側部と乳部につながり、缺盆(鎖骨上窩部)で帯状に密集して付着する。さらに、まっすぐ上行する支筋は、腋部を出て、缺盆を通過し、足太陽経筋の前方に向かう。その後、耳の後部に沿って上行して側頭前部(こめかみ後部)へ至り、頭頂部で他筋と交わる。さらに、下行して下顎部へ向かい、再び上行して顴骨(頬部)で帯状に密集して付着する。その支筋は顴骨(頬部)を出て、目尻で帯状に密集して付着し、外維(眼球と瞼の運動を維持する構造)を形成する。足少陽経の経筋病は、足の第4趾の痛みや引き攣り、膝部外側の引き攣り、膝の屈曲および伸展の障害、膝窩の引き攣りは大腿前面の引き攣りや、臀筋後面の引き攣りを引き起こし、さらには側腹部痛を引き起こし、缺盆から側胸部、乳部、頚部まで至る、その経筋循行路上に連続した痛みや痙攣を引き起こす。もし、左側から右側に向かう経筋に引き攣りが生じた場合、右眼を開けることができなくなる。なぜなら、経筋は上行して側頭前部を通過したあと、蹻脈と並走しており、さらに、陰陽蹻脈はこの部位で互いに交差し、左右の経筋もまたこの部位で互いに交差しているからである。つまり、左側の経筋は右側の経筋につながっているがゆえに、左側頭前部の経筋を損傷すると、右足を動かすことができなくなるのである。このような現象を維筋相交と称する。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は孟春痹と称する。

 

3【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・足陽明経筋(原文)】

足陽明之筋,起於中三指,結於跗上,邪外上加於輔骨,上結於膝外廉,直上結於髀樞,上循脇,屬脊;其直者,上循骭,結於膝; 其支者,結於外輔骨,合少陽; 其直者,上循伏兔,上結於髀,聚於陰器,上腹而布,至缺盆而結,上頸,上挟口,合於頄,下結於鼻,上合於太陽, 太陽爲目上網,陽明爲目下網; 其支者,從頬結於耳前。其病(足陽明之筋病)足中指支,脛轉筋,脚跳堅,伏兔轉筋,髀前腫,㿉疝,腹筋急,引缺盆及頬,卒口僻, 急者目不合,熱則筋縱,目不開。頬筋有寒,則急引頬移口; 有熱則筋弛縱緩,不勝收故僻。治之以馬膏,膏其急者,以白酒和桂,以塗其緩者,以桑鉤鉤之,卽以生桑炭置之坎中,高下以坐等,以膏熨急頬,且飲美酒,噉美炙肉,不飲酒者,自强也,爲之三拊而已。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰季春痹也。

※輔骨:この文脈では「腓骨」の意味。

※外廉:「外側」の意味。

※髀:「大腿部」の意味。

※骭:「脛骨」の意味。

※上腹而布:「布」は「分布する、分散する」の意味。『黄帝内経太素』には「布,谓分布也。(布は分布の意味である)」とある。

※足中指支:「足中指」は「足の第3趾」、「支」は「引っ張られる、引き攣る」の意味。

※脚:足の意味。日本語の「脚」とは意味が異なる。

※跳堅:「跳」は「跳動(脈打つ)」、「堅」は「堅強(硬直する)」の意味。

※㿉疝:「陰嚢腫大」の意味。

※卒口僻:「顔面神経麻痺」の意味。口角歪斜と同義。

※急者目不合:「急」は「拘急(ひきつる)」の意味。

※治之以馬膏,膏其急者:古代中国では家畜を五禽六畜に分類し、馬は五行の金畜に属するとした。また、筋は五行の木に属するため、金剋木で馬膏が筋の引き攣りに効果があると考えた。『黄帝内経太素』には「馬爲金畜,剋木筋也,故馬膏療筋急病也。(馬は金畜であり、木に属する筋を剋する。ゆえに馬膏は筋の引き攣りを治す)」とある。

※白酒和桂:『黄帝内経太素』には「桂酒洩熱,故可療緩筋也。(肉桂を混ぜた白酒は熱邪を排泄させる作用がある。ゆえに弛緩した筋脈を治すことができる)」とある。

※桑鉤:「鉤」は「鈎」の異体字。クワの木を加工した鈎状の牽引器具のこと。主に顔面神経麻痺の矯正器具として用いられた。

※坎:「坑」と同義。「穴」の意味。

※卽以生桑炭置之坎中,高下以坐等:「等」は「等待(待つ)」の意味で、「坐等」で「座って待たせる」の意味。『黄帝内経太素』には「以新桑木麄細如指,以縄繋之,拘其緩箱,挽急箱。仍於壁上爲坎,令舆坐等,坎中生桑炭火。(伐採した桑の木の枝を指の長さに切りそろえて紐で括り、弛緩している側に引っかけて、引き攣っている側を引っ張る。その後、患者を座らせて、患者の顔の高さに合わせてその壁に穴を開け、炭化させておいた新鮮な桑の枝に火をつけて穴の中に放り込む)」と記されている。現在は火事の危険性があるため、この方法は用いない。

※噉:「吃(食べる)」と同義。

※三拊而已:「三」は虚数で「多く」の意味。「拊」は『説文解字』に「拊,揗也。(拊は揗と同義である)」とあり、「さする、なでる」の意味。「而已」は助詞で、「~だけ」の意味。

※季春痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「季」は「第三の」の意味で、「季春」は春期を三期に細分化した期末、つまり、旧暦三月に相当する。この時期に発症する痹証を季春痹と称した。

 

【現代語訳】

足陽明経の経筋は足の第2趾、第3趾、第4趾に始まり、足背で帯状に密集して付着する。その支筋で斜めに上行するものは、輔骨(腓骨)を通過し、上行して膝の外側で帯状に密集して付着する。その支筋でまっすぐ上行するものは、大腿中心部で帯状に密集して付着し、さらに上行して季肋下部を通過して、脊柱両側に至る。その支筋でまっすぐ上行するものは、脛骨を通過して膝で帯状に密集して付着する。一部の支筋は輔骨(腓骨)の外側で帯状に密集して付着し、足少陽経筋と交わる。その支筋でまっすぐ上行するものは、伏兔を通過し、上行して大腿部で帯状に密集して付着したあと、陰部で網状に分散して付着する。一部の支筋は陰部から腹部に上行して分散し、缺盆で帯状に密集して付着し、頚部へ上行して、さらに上行して口唇周囲を通過し、頬部と交わる。その支筋で下行するものは、鼻部で帯状に密集して付着し、さらに上行して足太陽経筋と交わる。足太陽経筋は上瞼へ、足陽明経筋は下瞼へ至る。一部の支筋は頬から耳前へ至り、帯状に密集して付着する。足陽明経の経筋病は、足の第3趾の引き攣り、すねの引き攣り、足が脈打って強張るような感じがあり、伏兔穴の痙攣、大腿部前面の腫脹、陰嚢腫大、腹部痙攣が生じる。痙攣は缺盆と頬部へ至り、顔面神経麻痺を引き起こし、眼を閉じることができなくなるが、熱邪があれば筋脈が弛緩して眼を開けることができなくなる。頬部の筋脈に寒証があれば、痙攣によって顔面神経麻痺が起こるが、熱証があっても筋脈が弛緩して、収縮力が失われ、顔面神経麻痺が起こる。治療は馬油膏(馬の皮下脂肪を用いた膏薬)を引き攣りのある部位(患側)へ塗布し、白酒と粉末にした肉桂を混ぜたものを弛緩している部位(健側)へ塗布し、桑鈎を患者の口角へ固定して顔の歪みを整復する。さらに、炭化させた新鮮な桑の木の枝を壁に掘った穴の中に入れて火をつける。穴の高さは、患者を座らせた状態で顔が暖まる高さに調整する。その後、温めた馬油膏を引き攣りのある頬へ塗布し、患者に良い酒を飲ませ、良い肉を焼いて食べさせ、酒が飲めない患者には一口だけでも飲ませて、引き攣りのある部位をほぐれるまで軽くなでる。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は季春痹と称する。

 

4【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・足太陰経筋(原文)】

足太陰之筋,起於大指之端内側,上結於内踝; 其直者,絡於膝内輔骨,上循陰股,結於髀,聚於陰器,上腹,結於臍,循腹裏,結於肋,散於胷(胸)中; 其内者,著於脊。其病(足太陰之筋病)足大指支,内踝痛,轉筋痛,膝内輔骨痛,陰股引髀而痛,陰器紐痛,上引臍兩脇痛,引膺中脊内痛。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸, 命曰孟秋痹也。

※輔骨:この文脈では「脛骨」の意味。

※髀:「大腿骨」または「大腿」の意味。

※陰器:主に男性器をさす。『黄帝内経太素』には「陰器,宗筋所聚也。(陰器はすべての宗筋が集まる場所である)」とある。宗筋は主に腹部正中から陰部を構成する大筋(太い腱や靭帯)をさすが、三陰三陽の経筋が集まる男性器をさす場合もある。

※裏:「内」または「中」の意味。

※著於脊:「著」は「着」の通假字で「付着する」の意味。

※足大指支:「足大指」は「足の第1趾」、「支」は「引っ張られる、引き攣る」の意味。

※膺:「胸」の意味。

※孟秋痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「孟」は「第一の」の意味で、「孟秋」は秋期を三期に細分化した期初、つまり、旧暦七月に相当する。この時期に発症する痹証を孟秋痹と称した。『医部全録』には「仲秋痹」と記されている。

 

【現代語訳】

足太陰経の経筋は、足の第1趾内側に始まり、上行して足の内踝で帯状に密集して付着する。その支筋でまっすぐ上行するものは、膝内側の脛骨で帯状に密集して付着し、さらに大腿内側に沿って上行し、大腿骨骨頭前面で帯状に密集して付着したあと、陰部で網状に分散して付着する。その後、下腹部へ上行し、臍で帯状に密集して付着し、腹腔内を通過したあと、季肋下部で帯状に密集して付着し、胸腔内で分散する。その内部の支筋は脊柱両側へ付着する。足太陰経の経筋病は、足の第1趾内側の引き攣り、膝内側の脛骨の痛み、大腿内側の引き攣りによる大腿骨骨頭前面の痛み、陰部の締め付けられるような痛み、下腹部や両脇の締め付けられるような痛み、胸中と背中の痛みが生じる。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は孟秋痹と称する。

 

5【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・足少陰経筋(原文)】

足少陰之筋,起於小指之下,并足太陰之筋,邪走内踝之下,結於踵,與太陽之筋合而上結於内輔之下,并太陰之筋而上循陰股,結於陰器,循脊内挟膂,上至項,結於枕骨,與足太陽之筋合。其病(足少陰之筋病)足下轉筋,及所過而結者皆痛及轉筋。病在此者,主癎瘈及痙,在外者不能俛,在内者不能仰。故陽病者腰反折不能俛,陰病者不能仰。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸。 在内者熨引飲藥,此筋折紐,紐‌發數甚者,死不治。名曰仲秋痹也。

※内輔:「脛骨内側顆」の意味。

※陰股:「大腿内側」の意味。

※陰器:「外生殖器」の意味。

※挟膂:「脊柱の両側」の意味。

※俛:「俯(うつむく)」と同義。「前屈する」の意味。

※癎‌:病症名。発作性の精神疾患で、胎病、癫癎、羊癎風、羊角風、羊癎病などとも称される。「癎」は「癇」の古体字または通假字で、「癫」、「癎」、「癇」はすべて同義。『諸病源候論・巻四十五』には「十歳以上爲癫,十歳以下爲癇。(十歳以上は癫、十歳以下は癇とする)」とある。

‌※瘈‌:病症名。筋脈の引き攣りのこと。筋脈の痙攣や萎縮、四肢の痙攣や顔面神経麻痺を意味する「瘈疭」と同義。瘛は瘈‌の異体字。

※痙:病症名。頚背部の激しい引き攣り、口噤(口が開けられない)、四肢の痙攣、後弓反張などを主とする。「痓」は「痙」と同義。

※癎瘈:現代医学のてんかん発作(癫癎)に相当し、強直性痙攣や間代性痙攣(クローヌス)、精神障害性発作などを伴う病症のこと。また、遺伝素因の脳損傷で、脳内の異常放電による神経疾患である。飲食の異常や精神的ストレス、代謝性疾患などによって誘発される。

※熨引飲藥:異なる意味の四字を組み合わせた言葉である。「熨」は「温熨」、「熨貼」、「熨法」、「膏熨法」などの意味で、皮膚の表面に温熱刺激を与えて、気血や経脈の疎通を促す、いわば物理療法の1つである。『霊枢・経筋』には、馬油膏を塗布して桑の木を燃やした熱で患部を温める方法が、『霊枢・寿夭剛柔篇』には発熱性のある生薬を布に浸して患部を温める方法が記されている。また、『霊枢・刺節真邪篇』には、刺鍼後に温熨を用いる方法が記されている。古代では熱刺激によって全身を温めることで、発汗を促し、体内の邪気を排出、駆逐することができると考えられていた。「引」は「導引」の意味で、五禽戯のように、動物の動きを真似た規律性のある動きや呼吸法を用いて、身体の血液循環を促す古代養生法の1つである。『霊枢・経筋』に記されている「三拊」や「桑鉤」による按摩や整復も、用い方によっては導引の一種となる。「飲」は主に飲食を指すが、「薬の内服」の意味である。「薬」は「薬物を使用する」の意味で、薬物の内服および外用を指すが、文脈によっては「熨」も同義となる。

※故陽病者腰反折不能俛,陰病者不能仰。:背部は陽、腹部は陰に属すため、陽病は背部に、陰病は腹部に引き攣りが生じる。

※折紐:「折」は「折断(折る)、曲折(折れ曲がった)、折叠(折りたたむ)」の意味。『説文解字』には「折,断也。(折は断と同義である)」とある。「紐」は「つなぐ、結合する」の意味。『説文解字』には「紐,系也。(紐は系と同義である)」とある。また、「折紐」は前文の「不能俛(前屈できない)」と「腰反折不能俛(腰が後ろに反って前屈できない)」に対応しており、腰がのけぞるほどに後屈してしまう状態を表している。さらに、この文では主筋(主となる経筋)の傷害によって癫癎(遺伝素因の脳損傷による神経疾患)が起こると主張しており、「此筋折紐」の「此筋(この経筋)」は主筋のことを指し、「(折)紐‌發數甚者」は「後屈(癫癎の発作)回数が多い場合は」の意味となる。したがって、「折紐」は「後弓反張」の意味となる。

※仲秋痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「仲」は「第二の」の意味で、「仲秋」は秋期を三期に細分化した期中、つまり、旧暦八月に相当する。この時期に発症する痹証を仲秋痹と称した。『医部全録』には「孟秋痹」とある。

 

【現代語訳】

足少陰経の経筋は、足の第5趾の裏に始まり、足太陰経筋とともに斜めに内果下方を上行し、踵で帯状に密集して付着する。そのあと、足太陽経筋とともに上行して、脛骨内側顆で帯状に密集して付着し、足太陰経筋とともに上行して、大腿内側を通過して陰部で帯状に密集して付着する。そのあと、脊柱両側を通過して、後頚部を上行し、枕骨(後頭部)で帯状に密集して付着し、足太陽経筋と合流する。足少陰経の経筋病は、足底の痙攣、その経筋の循行経路上と付着部のすべてに痛みや引き攣りが生じる。病が主筋にある場合は、てんかん発作や四肢の痙攣、後弓反張を主症状とする。病が背部にあれば前屈できず、病が胸腹部にあれば後屈できない。したがって、背部は陽、胸腹部は陰であるため、陽病は後頸部から背部に引き攣りが生じ、腰部が後ろに反るため、前屈することができず、陰病は胸腹部に引き攣りが生じ、前かがみとなるため、後屈することができない。この部位の痛みはその経筋循行路上の引き攣りによる痛みである。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。病が胸腹部にある陰病の場合は、刺鍼療法は用いず、熨法、導引術、煎じ薬を用いて治療する。主筋の後弓反張が強く、発作が頻発する場合は、治すことができず、予後不良となる。このような病は仲秋痹と称する。

 

6【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・足厥陰経筋(原文)】

足厥陰之筋,起於大指之上,上結於内踝之前,上循脛,上結内輔之下,上循陰股,結於陰器,絡諸筋。其病(足厥陰之筋病)足大指支,内踝之前痛,内輔痛,陰股痛轉筋,陰器不用,傷於内則不起,傷於寒則陰縮入,傷於熱則縱挺不收,治在行水清陰氣。其病轉筋者,治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,命曰季秋痹也。

※足大指支:「足大指」は「足の第1趾」、「支」は「引っ張られる、引き攣る」の意味。

※陰器不用:「陽痿(ED)」の意味。陽萎、陰痿、陰萎も同義。

※行水清陰氣:「行水」は利尿作用を促して湿熱を排出させること。「清」は体内に溜まった熱邪や毒物を排出させて、身体の平衡状態や生理機能を回復させること。「陰氣」は厥陰肝経の気血の流れのこと。つまり、「行水清陰氣」とは、腎気を補うことで、間接的に肝気を養う方法で、足厥陰経の病に特化した治療法の一種である。『鍼灸大成』にも同種の方法が記されており、陽痿(ED)の治療法として、陰谷、陰交、然谷、中封、大敦などを取穴する方法、陰挺(子宮下垂、子宮脱)の治療法として、太衝、少府、照海、曲泉などを取穴する方法が記されている。

※季秋痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「季」は「第三の」の意味で、「季秋」は秋期を三期に細分化した期末、つまり、旧暦九月に相当する。この時期に発症する痹証を季秋痹と称した。

 

【現代語訳】

足厥陰経の経筋は、足の第1趾の上部に始まり、上行して内果の前面で帯状に密集して付着する。その後、上行して脛骨内側を通過し、上行して脛骨内側顆で帯状に密集する。さらに、上行して大腿内側を通過し、陰部で帯状に密集して付着し、足三陰および足陽明の各経筋につながる。足厥陰経の経筋病は、足の第1趾の引き攣り、足内果前面の痛み、脛骨内側の痛み、大腿内側の痛みと引き攣り、陰部の機能不全などが生じる。また、房事が過度で陰精を消耗すれば、陽痿(ED)によって勃起不全となり、寒邪が経筋を傷害すれば、生殖器が萎縮して機能が減退し、熱邪が経筋を傷害すれば、生殖器が弛緩して機能が亢進し、収まらない。このような病態の治療は、利尿作用を促し、厥陰肝経の気血の流れを整えることを主とする。経筋が引き攣って痛む病態の治療は、燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は季秋痹と称する。

 

7【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・手太陽経筋(原文)】

手太陽之筋,起於小指之上,結於腕,上循臂内廉,結於肘内鋭骨之後,彈之應小指之上,入結於腋下;其支者,後走腋後廉,上繞肩胛,循頸出走太陽之前,結於耳後完骨; 其支者,入耳中; 直者,出耳上,下結於頷,上属目外眥(眦)。其病(手太陽之筋病)小指支,肘内鋭骨後廉痛,循臂陰入腋下,腋下痛,腋後廉痛,繞肩胛引頸而痛,應耳中鳴痛,引頷目瞑,良久乃得視,頸筋急則爲筋瘘頸瘇。寒熱在頸者,治在燔鍼劫刺之,以知爲數,以痛爲輸。其爲腫者,復而鋭之。本支者,上曲牙,循耳前,属目外眥(眦),上頷,結於角。其痛當所過者支轉筋。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰仲夏痹也。

※應:「引っ張る、引き起こす」の意味。『黄帝内経太素』には「應,引也。(應は引と同義である)」とある。

※小指支:「小指」は「手の小指」、「支」は「引っ張られる、引き攣る」の意味。

※肘内鋭骨:「上腕骨内側上顆」の意味。

※筋瘘:「筋痿」の誤記。筋痿は五痿(筋痿、脈痿、肉痿、骨痿、皮痿)の1つで筋委縮による四肢無力が生じる病症である。

※曲牙:「頬車穴」の意味。

※仲夏痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「仲」は「第二の」の意味で、「仲夏」は夏期を三期に細分化した期中、つまり、旧暦五月に相当する。この時期に発症する痹証を仲夏痹と称した。

 

【現代語訳】

手太陽経の経筋は、手の小指の上端に始まり、前腕前面で帯状に密集して付着する。その後、上行して前腕内側を通過し、上腕骨内側上顆後方の、指で上腕骨内側上顆を弾いた時に手の小指まで痺れる感じが伝導する部位で帯状に密集して付着して、腋窩に入って帯状に密集して付着する。その支筋は腋窩後部を通過したあと、上行して肩甲骨で分散し、頚部を出て足太陽経筋の前方を通過し、耳後方の完骨で帯状に密集して付着する。その支筋は耳中へ入り、真っ直ぐ上行する支筋は耳の上に出たあと、再び下行して下顎で帯状に密集して付着し、再び上行して目尻に至る。手太陽経の経筋病は、手の小指の引き攣り、上腕骨内側上顆後方の痛み、前腕内側から腋窩の痛み、腋窩後方の痛み、肩甲骨周囲と頚部の痛み、耳鳴り、耳痛、下顎部の引き攣りや強張り、目瞑(眼を開くことが困難な状態)、一時的な視力低下、頚部筋肉の引き攣りによる筋萎縮、頚部腫脹が生じる。寒証または熱証が頚部に見られる場合、治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。刺鍼後も頚部の腫脹が退縮しない場合は、鋭利な鍼で再度刺鍼する。主筋から出る支筋のうちの1つは、頬車穴から上行し、耳の前面を通過して、外眼角で帯状に密集して付着する。もう1つの支筋は、下顎から上行してこめかみで帯状に密集して付着する。この部位の痛みはその経筋循行路上の引き攣りによる痛みである。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は仲夏痹と称する。

 

8【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・手少陽経筋(原文)】

手少陽之筋,起于小指次指之端,結於腕,上循臂結於肘,上繞臑外廉,上肩走頸,合手太陽; 其支者,當曲頬入繫舌本; 其支者,上曲牙,循耳前,属目外眥(眦),上乗頷,結於角。其病(手少陽之筋病)當所過者,卽支轉筋,舌巻,治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰季夏痹也。

※季夏痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「季」は「第三の」の意味で、「季夏」は夏期を三期に細分化した期末、つまり、旧暦六月に相当する。この時期に発症する痹証を季夏痹と称した。

 

【現代語訳】

手少陽経の経筋は、手の薬指の外側尖端に始まり、上行して前腕背面で帯状に密集して付着する。さらに、上行して前腕を通過し、肘で帯状に密集して付着する。また、上腕背面に沿って上行し、肩部へ至り、頚部へ上行して、手太陽経筋と合流する。その支筋は下顎角から口腔へ入り、舌根につながる。その支筋は上行して頬車穴から耳の前を通過して、目尻の後方につながったあと、こめかみを上行して、側頭前部へ至る。手少陽経の経筋病は、その経筋循行路上に筋肉の引き攣りや痛み、舌巻(舌の萎縮や運動障害)が生じる。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は季夏痹と称する。

 

9【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・手陽明経筋(原文)】

手陽明之筋,起於大指次指之端,結於腕,上循臂,上結於肘外,上臑,結於髃; 其支者,繞肩胛,挟脊; 直者,从肩髃上頸; 其支者,上頬,結於頄; 直者,上出手太陽之前,上左角,絡頭,下右頷。其病(手陽明之筋病)當所過者,支痛及轉筋,肩不舉,頸不可左右視。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰孟夏痹也。

※孟夏痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「孟」は「第一の」の意味で、「孟夏」は夏期を三期に細分化した期初、つまり、旧暦四月に相当する。この時期に発症する痹証を孟夏痹と称した。

 

【現代語訳】

手陽明経の経筋は手の人指の橈側端に始まり、前腕背面で帯状に密集して付着し、上行して前腕を通過し、さらに上行して肘外側で帯状に密集して付着し、上腕外側を経て、肩髃で帯状に密集して付着する。その支筋で背面へまわるものは、肩甲骨後部で分散して、脊柱の両側へ至る。また、その支筋でまっすぐ上行するものは、肩髃から頚部へ至り、一部の支筋は上行して頬部で帯状に密集して付着する。また、まっすぐ上行した支筋は手太陽経筋の前方へ出て、左額角を上行し、前頭部を通過したあと、再び下行して右下顎部へ至る。手陽明経の経筋病は、その経筋循行路上に筋肉の引き攣りや痛みが生じ、肩を挙げることや、首を回旋することができない。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は孟夏痹と称する。

 

10【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・手太陰経筋(原文)】

手太陰之筋,起於大指之上,循指上行,結於魚後,行寸口外側,上循臂,結肘中,上臑内廉,入腋下,出缺盆,結肩前髃,上結缺盆,下結胷(胸)裏,散貫賁,合賁下,抵季脇。其病(手太陰之筋病)當所過者,支轉筋,痛,甚成息賁,脇急吐血。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰仲冬痹也。

※結と聚:経筋の走行は循経性(経脈に沿った循行性)を有し、「結(帯状に密集して付着する)」と、「聚(網状に分散して付着する)」の2つの連結方式によって骨格に接合する特性がある。主に関節部では帯状に密集して結合し、筋肉部では網状に分散するという、聚散性を備えている。

※燔鍼:鍼を火であぶって用いる刺鍼法の一種。焠鍼、火鍼などとも称される。

※劫刺:素早く刺入して、素早く抜鍼する刺鍼法の一種。九刺(古代刺法)の1つで、痹症の治療法である焠刺と同義。

※息賁:病症名。五積病の1種で肺積のこと。『難経・五十四難』に「肺之積,名曰息賁。(肺積病は息賁病とも称する)」とある。「積」とは胸腹部にみられる触知可能な硬結のことである。肺気は胃気と同様に、正常時は下降する働きがあるが、何らかの異常によって気が上昇することを気逆と称する。つまり、肺気の気逆によって、胸背部痛や少気(肺気が不足して呼吸が浅く、発語に力がない)、健忘(記憶障害)、せき、目瞑(眼を開くことが困難な状態)、皮膚の冷え、皮下の痛みなどの臨床症状を呈する病態を息賁と称する。

※目瞑:病症名。自発的に眼を開くことができなくなった状態のこと。多くの場合、精気不足、邪熱旺盛により、熱症状、精神不安定、めまいなどの症状を呈す。また、危篤時にもみられ、『難経・二十四難』には「三陰氣俱絶者,則目眩轉目瞑,目瞑者爲失志,失志者則志先死,死即目瞑也。(足厥陰、手太陰、手少陰の気がすべて失われると、目がかすみ、目の前が真っ暗になり、次第に眼を開けることができなくなる。眼を開けることができなくなれば、意識が朦朧とする。意識が朦朧となれば、次第に意識を失う。意識を失えば、眼を開けることができない。)」とある。

※仲冬痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「仲」は「第二の」の意味で、「仲冬」は冬期を三期に細分化した期中、つまり、旧暦十一月に相当する。この時期に発症する痹証を仲冬痹と称した。

 

【現代語訳】

手太陰経の経筋は手の母指の上に始まり、母指に沿って上行し、魚際で帯状に密集して付着したあと、寸口動脈外側(橈骨茎状突起外側)を通って、上行して前腕前面を通過し、肘の前面中部で帯状に密集して付着する。さらに、上腕内側を上行して、腋窩に入り、缺盆(鎖骨上窩中央)から出て、肩髃前方(上腕骨大結節と肩峰の間)で帯状に密集して付着する。その支筋で上行するものは缺盆へ戻って、帯状に密集して付着し、下行するものは胸中で帯状に密集して付着し、横隔膜(胃の噴門部)で分散して、横隔膜(胃の噴門部)で手厥陰経筋と交わったあと、季肋部(肋骨前面下部)に至る。手太陰経の経筋病は、その経筋循行路上に筋肉の引き攣りや痛み、重症者は息賁病が生じ、腋周囲の絞扼感や吐血を呈す。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は仲冬痹と称する。 

 

11【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・手厥陰経筋(原文)】

手心主之筋(手厥陰経筋),起於中指,與太陰之筋并行,結於肘内廉,上臂陰,結腋下,下散前後挟脇; 其支者,入腋,散胷(胸)中,結於賁。手心主之筋病(其病)當所過者,支轉筋,前及胷(胸)痛息賁。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸,名曰孟冬痹也。

※賁:文献によって、「臂」と記されているが、「臂」は「賁」の通假字である。また、「臂」は「膈(横隔膜)」の意味もあり、「胃の噴門」または「横隔膜」の意味になる。

※前:「導(もたらす)」の意味。

※孟冬痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「孟」は「第一の」の意味で、「孟冬」は冬期を三期に細分化した期初、つまり、旧暦十月に相当する。この時期に発症する痹証を孟冬痹と称した。

 

【現代語訳】

手厥陰経の経筋は、手の中指尖端中央に始まり、手太陰経筋とともに上行して肘内側で帯状に密集して付着する。さらに、上腕内側を上行して、腋窩で帯状に密集して付着する。その後、下行して腋窩から季肋部の前後で分散する。その支筋は腋内に入り、胸腔内で分散し、胃の噴門や横隔膜で帯状に密集して付着する。手厥陰経の経筋病は、その経筋循行路上に筋肉の引き攣りや痛みが生じ、胸痛や息賁病が生じる。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。このような病は孟冬痹と称する。

 

12【黄帝内経・霊枢・経筋第十三・手少陰経筋(原文)】

手少陰之筋,起于小指之内側,結於鋭骨,上結肘内廉,上入腋,交太陰,挟乳裏,結於胷(胸)中,循臂,下繫於臍。其病(手少陰之筋病)内急,心承伏梁,下爲肘網。其病(手少陰之筋病)當所過者,支轉筋,筋痛。治在燔鍼劫刺,以知爲數,以痛爲輸。其成伏梁唾血膿者,死不治。経筋之病,寒則反折筋急,熱則筋弛縱不收,陰痿不用。陽急則反折,陰急則俛不伸。焠刺者,刺寒急也。熱則筋縱不收,無用燔鍼,名曰季冬痹也。足之陽明,手之太陽,筋急則口目爲僻,眥急不能卒視,治皆如右方也。

※臂:『霊枢・経筋篇第十三』には「結於胸中,循臂。」とあるが、この「臂」は「賁」の通假字で、「賁(胃の噴門)」は「膈(横隔膜)」の意味もあるため、「臂」は「胃の噴門」または「横隔膜」の意味になる。『黄帝内経太素』には「賁,謂膈也,筋雖不入蔵府,仍散於膈也。(賁は膈の意味であり、経筋は臓腑には入らないが、胃の噴門や横隔膜へ分散する)」とある。つまり、手少陰経筋は内臓には入らず、胃の噴門近くまたは横隔膜に近い部位を通過して臍に至るということになる。

※心承:「心」は心臓、「承」は「承載(荷重を受ける)」の意味。

※伏梁:病症名。五積証の1つである心積の別名。胸骨下端から臍までの間に梁(はり)を伏せたような硬結が現れることから「伏梁」と称された。心窩部の圧迫感や絞扼感、イライラなどが現れ、重症化すると吐血がみられる。

※下爲:「病勢が下部へ及ぶ」の意味。

※肘網:肘が網をかけられたかのように引き攣り、こわばって動かなくなった状態のこと。

※唾:『鍼灸甲乙経』には「吐」と記されている。

※季冬痹:『黄帝内経』では天人相応思想に基づき、自然摂理と人体機能には相関関係があるとしている。また、五臓の気と四季、五行は互いに影響し合っており、病には周期性や治療法則がある。古代中国では、四季を「孟、仲、季」の三期に細分化しており、「季」は「第三の」の意味で、「季冬」は冬期を三期に細分化した期末、つまり、旧暦十二月に相当する。この時期に発症する痹証を季冬痹と称した。

 

【現代語訳】

手少陰経の経筋は、手の小指内側に始まり、豆状骨で帯状に密集して付着する。さらに上行して肘内側で帯状に密集して付着し、再び上行して腋窩へ入り、手太陰経筋と交わる。その後、胸部を通過して、胸中で帯状に密集して付着し、横隔膜を通過して臍につながる。手少陰経の経筋病は、胸部の引き攣りや、心窩部に硬結が現れる伏梁病によって、肘がこわばって動かなくなる症状が生じる。手少陰経の経筋病は、その経筋循行路上に筋肉の引き攣りや痛みが生じる。治療は燔鍼(火鍼)で速刺速抜するが、刺鍼の刺激量と回数は、その病状や患者が訴える鍼感(熱感)を基準とし、痛む部位を腧穴として用いる。伏梁病による吐血が濃い者は治すことができず、予後不良となる。経筋病は、寒証であれば背部が反って筋脈が引き攣り、熱証であれば筋脈が弛緩して収まらず、陽痿となって勃起不全となる。背部の筋脈が引き攣れば、前屈できず、腹部の筋脈が引き攣れば、後屈できない。焠刺は火鍼を速刺速抜する刺鍼法であり、寒邪による筋脈の引き攣りに用いるものである。熱邪によって筋脈が弛緩して収まらない場合は、火鍼を用いてはならない。このような病は季冬痹と称する。足陽明経筋と手太陽経筋の筋脈が引き攣ると、顔面神経麻痺、目尻の引き攣りによる突然の視界不良が生じる。このような病態が生じた時は、前述した治療法を参照すべきである。

 

 

 

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エビの用法

エビは、中国語では、「虾(蝦)xiā」と記す。エビは茹でると朝焼けのように紅くなることから、「霞xiá(朝焼け、夕焼け)」の通假字である、「虾(蝦)xiā」の文字が使われるようになったと言われている。

 

本草綱目においては、エビは「蝦」と「海蝦(紅蝦)」の項目で大別されているが、蝦は体色によって青蝦と白蝦、生息地によって泥蝦と海蝦などとも分類される。また、梅雨時期に収穫されるものは梅蝦、質の良いものは米蝦、質の悪いものは糠蝦と称され、薬としての用法が細分化されている。

 

エビの性質は「甘、温、微毒」である。主治は、湿熱または風邪(ふうじゃ)に起因する、小児の遊走性紅斑とされ、李時珍は、すり潰したエビを患部に塗布する治療法を記している。また、気血虚弱に起因する水痘にはエビのスープを、風邪(ふうじゃ)と痰湿に起因する病にはエビを煮詰めた汁を、悪性の腫れものにはエビをすり潰して膏薬にしたものを塗布する。

 

ユダヤ教徒は、甲殻類や、地を這う生物は食さないと言われている。その真の理由は経典に依るものなのか否かは不明であるが、おそらく、その生物の醜さや、彼らの住まう海底や地面には、ゴミや塵、重金属などが多く堆積していることなどが、忌むべき対象として、影響しているのかもしれない。

 

日本では、エビやカニは食物アレルギーの原因となり得る生物として、特定原材料の表示義務がある。当然、どの食物にも長短はあるが、薬として用いられる生物、植物は、共にその毒性に依るケースが少なくない。それゆえ、エビに関しても、用法や用量に注意して、慎重に用いる必要がある。

果糖ジュースのリスク

脂肪肝や肝硬変、肝臓癌の原因は、飲酒によってリスクが高まると思い込んでいる人が多いが、実際には、糖分の取り過ぎによって、そのリスクが高まると言われている。
 
 
特に、果糖ブドウ糖液糖や砂糖などが多く含まれているアルコール類や、果糖ジュース、清涼飲料水、エナジードリンク、スポーツ飲料、乳酸菌飲料などを毎日大量摂取していると、肝炎のリスクが高まり、最終的には肝硬変や肝がんに至る可能性がある。当然ながら、ペットボトル症候群などのケトアシドーシス、糖尿病、その他万病のリスクも高まる。
 
 
下記動画では、肝臓専門の外科医である尾形哲氏が、果糖ジュースが肝臓に及ぼす害について言及している。
 
 
飲酒習慣がなくても、短時間のうちに肝臓の許容値を超えた果糖を摂ると、慢性肝炎となる。さらに、毎日大量の果糖を摂りすぎていれば、いずれは脂肪肝となり、最終的には肝硬変、肝癌に至る可能性が高まる。 肝臓は自己再生能力が極めて高く、基本的に48時間で修復され、70%切除しても、3か月ほどで元の大きさに再生すると言われている。しかし、果糖を休みなく、大量に摂取し続ければ、肝臓は疲弊し、その再生能力は失われてゆく。特に、運動習慣がない、筋肉量が少ない、過食、アルコール中毒であると、25歳を過ぎた頃から急速に肝機能が低下する可能性が高い。
 
 
どの臓器も、処理能力の限界を超えれば炎症という名のオーバーヒートを起こし、細胞の修復が追いつかなければ癒着、繊維化、癌化を招く。例えば、水は身体に良いからと言って、毎日多量の水分を摂取すれば、低ナトリウム血症(水毒症)や腎疾患のリスクが高まり、中医学的には湿熱を生み出す原因にもなる。
 
 
朝にスムージーを飲む場合は、果糖の総量に注意し、濃縮還元ジュースは基本的に飲まない方が良い。また、アルコールは基本的に飲まない方が良いが、どうしても飲みたければ、1回ごとの摂取量を少なくし、週2回程度は休肝日を設けることで、肝疾患のリスクを低下させることができる。

当帰(トウキ)の由来と効能

「当帰(トウキ)」という生薬自体は、日本でも比較的認知されているが、その名称の正確な由来や効能については、ほとんど知られていない。

 

日本のウェブ上で散見される中薬(漢方)に関する情報は、中医鍼灸関連と同様、勘違いや妄想によって生じたと思しき内容が非常に多い。

 

特に、生薬に関しては、神農本草経や本草綱目の内容さえ参照せず、素人が専門家を装って記したような文章が多々あり、Wikipediaなどで一見学術的な内容にみえたとしても、実際には出鱈目な誤情報であることが少なくない。おそらく、日本では、現在に至るまで、中医経典がまともに翻訳されてこなかった影響と思われるが、とにかく、中医鍼灸、中薬(漢方)に関する誤解が超絶に多い。日本ではほとんど知られていないが、生薬に関する経典は、神農本草経や本草綱目以外にも、本草正、本草正義など、無数に存在する。

 

当帰は、古くは『神農本草経』に記載があり、乾帰、山蕲、白蕲、文無などの別称がある。主な産地は、中国甘粛省定西市の南部に位置する岷(ミン)県である。

 

岷県はチベット高原(青藏高原)の下部、海抜2,040~3,754mの高さに位置する。また、標高が極めて高く、高原性大陸気候に属するため、低温で乾燥しており、多くの中薬材料の主産地となっている。当帰以外にも、黄耆や紅耆、堂参、丹参などの高級生薬を含む、230種余りが栽培されていると言われている。この地での生薬栽培の歴史は1700年前まで遡り、当帰栽培は1500年ほど続いているらしい。岷県産の当帰は「岷归(岷帰)」と呼ばれ、中国で最も良質な「妇科圣药(婦科聖薬)」として、高額で取引されている。

 

当帰という名称の由来は諸説ある。

 

唐朝期、岷県付近は「当州」と呼ばれ、当州では当帰を「蕲(qí)」と称し、「蕲」と「归(帰)」の発音が押韻であったため、当帰と称された、という説がある。

 

また、当帰という二字には「应当归来(元の場所へ帰るべきだ)」と言う意味がある。

 

李時珍は、本草綱目に「当归调血,为女人要药,有思夫之意,故有当归之名。(当帰は気血を調整する作用があり、女性に重要な薬である。「嫁ぎたい」という意味があり、当帰という名前の由来になった)」と記している。さらに、李時珍は「胡麻好种无人种,正是归时底不归(胡麻を植える最適な季節が来たが、男性は戦いのために外出しており、植えてくれる人がいない。嫁ぐべき時に男性が帰って来ないから、女性たちは嫁げない)」という、宋代に詩人の汪氏が記した『寄良人』引用し、当帰が女性本来の身体機能を蘇らせる良薬であることを明示している。

 

また、宋代に名医と称された、陳承は、当帰には気血の不調や、出血に由来する病に対する効能があり、気血を本来あるべき部位に戻す作用があるがゆえに、当帰と称された、と主張している。

※中国語の「当」には「する、〜したい」、「归(帰)」には「戻す、嫁ぐ」の意味がある。Wikipediaの当帰の項目には『寄良人』に記された上記一文を引用、翻訳したと思しき内容が記されているが、原文や出典も記されておらず、明らかな誤訳である。

 

伝統的な中薬方剤の多くは当帰を用いており、「十方九归(10種の処方があれば、その内9種は当帰を用いている)」という言葉もある。また、当帰は婦人科疾患において著しい効果がみられるため、「薬王」とも称されることがある。

 

当帰には、主に活血、補血(造血)、抗腫瘍、抗酸化、抗炎症、鎮痛などの作用がある。特に、生理不順、早発閉経、更年期障害、生理痛、産後鬱などに対する効果が高いとされ、当帰に地黄(ジオウ)、芍薬シャクヤク)、川芎(センキュウ)を加えた、四物湯(スーウータン)と呼ばれる処方がよく用いられる。その他、挫傷や瘀血、関節痛、痺れ、可動域障害に用いられる、蠲痹湯(ジュアンビータン)という処方にも当帰が含まれているように、当帰は補虚にも適しており、血虚に起因する顔面蒼白、倦怠感、めまい、耳鳴り、目の下のクマ、動悸、皮膚の乾燥、手足の冷えなどにも用いられる。

 

例えば、産後や大量出血後の血虚には、当帰10g、割いたナツメ5g、氷砂糖5g、水適量を加えて煮出した汁を毎日1回服用すると、回復が促進されると言われている。

 

四物湯に比較的成分が近く、当帰が主として配合されており、防腐剤が含まれていない市販の商品は、イスクラ産業株式会社が販売している「イスクラ婦宝当帰膠B」がおすすめである。エキス剤のため、白湯で薄めて簡単に飲むことができる。防腐剤が入っていないため、開封後は冷蔵保存が必須となる。規定量は4mlを1日2回とされているが、最初は規定量の半分から試すと良い。服用後に副作用が感じられた場合はすぐに服用を中止する。また、効果が感じられないからと言って、規定量を超えて服用してはいけない。基本的に、2週間ほど服用して効果がなければ、他の漢方薬に変更したり、食事の改善や、運動習慣の見直しが必要になることがある。

 

婦人科疾患に適した補気血作用のある生薬は、当帰以外にも、熟地(ジュクジオウ)、白芍(ビャクシャク)、阿胶(アキョウ)、何首鳥(ツルドクダミ)、枸杞子(クコノミ)などがある。

 

しかし、生薬は乱用したり、誤って用いれば、副作用が見られる可能性があるため、個々人の体質や症状に応じて用いなければならない。例えば、四物湯は強烈な活血および補血作用があるため、妊婦への使用は厳禁である。特に、当帰と川芎は子宮収縮を誘発させる作用があるため、流産や早産のリスクが高まる可能性が指摘されている。基本的に、どの漢方薬も、妊産婦や授乳期の女性、出血傾向や肝機能障害のある患者には慎重に用いる必要がある。

 

 

当帰を用いる場合は、適切な食事や、適度な運動を組み合わせることで、生薬本来の補気血作用を高めることができるが、用法や用量を過度に誤った場合や、生薬の成分が体質や既往症に適していない場合は、副作用が起こる可能性があるため、中薬に精通した医師や、薬剤師の指導の下、十分に注意して用いることが肝要である。

上火(のぼせ)は万病の元

中医学においては、いわゆる“上火(のぼせ)”は万病の元であるとされている。

 

それゆえ、問診の際には、日常的なのぼせの症状である、顔の紅潮や、脂漏性皮膚炎口内炎、吹き出物、湿疹、下肢の血管炎、口の渇き、ドライアイ、目の充血、鼻炎、口の苦さ、口臭、濃縮尿、舌苔の変化などを軽視しないことが重要だとしている。

 

なぜなら、身体で日々、局所的に起きている炎症はいわば火事のようなものであり、初期は容易に消火可能な微細な炎症であっても、放置すれば次第に全身へ延焼して、様々な難治な病態を引き起こす可能性があるからである。実際、軟部組織の癒着も、潰瘍も、悪性腫瘍も、結局は慢性炎症の成れ果てであり、その多くは局所的かつ微小な炎症に起因している。

 

“上火(のぼせ)”という言葉は中医学ではよく使われるが、いわゆる“约定俗成”で、民間で広まった言葉であるから、本来は中医用語ではない。

 

ちなみに、動悸、寝汗を伴う不眠、早口、落ち着きの無さ、独り言、呼吸の乱れ、ヒステリー、便秘、目眩、耳鳴り、突発性難聴、食いしばり、歯軋り、イライラ、短気、脱毛症、慢性的な首肩凝り、更年期障害などものぼせの症状に分類できる。中医臨床上では、のぼせは主に湿熱体質と陰虚体質に分類される。湿熱体質の主な特徴は、常時顔の油分が多いことや、吹き出物ができやすいこと、口内が苦い感じがしたり、口臭があること、尿の黄色が濃いことなどである。陰虚体質の特徴は、常時顔が紅潮していることや、口内が渇いたり、舌が乾燥すること、寝汗が多く、睡眠障害があること、五心煩熱(掌、足底、胸部の熱感)があることなどである。

 

のぼせの主な原因は、飲食と精神的ストレスであると言われている。

 

飲食は、特に辛いものの影響が大きいが、炒めたものや揚げたものも、調理過程で食材の水分量が減るため、食べると体内の水分を奪い、のぼせの原因となりやすい。のぼせが慢性化すると、身体に熱が溜まりやすくなるため、その熱を下げようと、無性に冷たいものを欲し、アイスやキンキンに冷したジュースなどを常時口にするようになる。結果的に、胃や小腸が冷され、胃腸の機能が低下するため、中医学的には脾胃が弱まり、食物の消化や吸収、エネルギーの運化能力が阻害されるため、倦怠感や、自律神経失調に伴う多汗、鬱、代謝不良による肥満、イライラ、不眠などがみられるようになる。

 

また、辛い物を食べたくなるのは、胃腸の機能が低下している可能性があり、辛い物を食べることで、無意識に食欲を増進させている可能性がある。

 

中国の南方では強烈に辛い火鍋を食べる習慣があるが、これはおそらく湿度による影響である。湿度が高いと、中医学的には湿邪によって胃腸の機能が低下するため、習慣的に辛いものを食べるようになったのだろう。もちろん、中国では古代から衛生上、食物には火を通した方が安全に食べられる、という経験的な理由もある。ちなみに、広東人は食事の前に食器を熱湯で煮沸消毒する習慣があるため、中国北方で外食する際、食器を煮沸消毒している人を見かけたら、それは広東人である可能性が高い。

 

また、朝鮮半島ではキムチのような辛い料理を食べる習慣があるが、これは極度に寒い環境への適応と、経験的に乳酸菌が身体によい影響を与えることを知っていたのだろう。実際、近年の研究では、のぼせは腸内細菌の乱れによっても起こり得る可能性が指摘されている。

 

同様に、乾燥させた食材ものぼせを引き起こす。例えば、ライチや龍眼(桂圆)は、中薬的には熱性に分類されるが、乾燥させれば、熱性がより強烈になり、補気作用が高まる。身体を温める作用のある生姜も、湿熱体質や陰虚体質である人が食べ過ぎれば、容易にのぼせを引き起こす。妊婦や更年期の女性は特に気をつけた方がよい。

 

基本的に、中医学では、食材は色や生育環境によって、上火(体内に熱を溜める)か、去火(体内から熱を取り除く)かを決めている。例えば、スイカは天然の白虎湯(解熱剤)と呼ばれ、去火作用がある。青野菜や水耕栽培の蓮根、ワカメ、苦瓜(ゴーヤ)なども去火作用があり、のぼせ症状がある人に適している。暑い夏にスイカを食べたり、沖縄の人々がゴーヤ料理を食べるのは理にかなっている。

「腧穴」と「输穴(輸穴)」と「俞穴」の違い

中医鍼灸用語には難解な文字が多い。また、時代によって使われる漢字が異なったり、中医経典自体に記されている文字が誤っていることがよくある。

 

それゆえ、後世の多くの研究者によって、用語は適切と思しき文字に訂正され、現代ではある程度、用語が統一されている。

 

しかしながら、日本においては、中医経典を原文で正確に解せるレベルまで中国語を専門的に学び、研究してきた者が皆無に等しい。その結果、現代に至るまで、中医鍼灸用語の誤訳や極端な意訳が少なからず、中医関連書籍においても、勘違いや妄想、思い込みなどによって奇特に解釈されたものが少なくない。

 

中国語が起源である中医鍼灸用語は、中医鍼灸治療が日本へ伝播するにあたり、日本人でも理解しやすいように読み仮名が付けられたわけだが、用語の「読み」には音読みと訓読みが混在するなど、法則に一貫性がなく、先人の拙い専門知識や中国語能力の不足、その当時の気分などによって決定されたと思しき、奇々怪々な「読み」も多い。

 

ちなみに、日本鍼灸界においては、中医鍼灸用語を無理矢理、何れかの常用漢字に変更しているケースもあれば、適切な常用漢字が見つからず、字体が似たような、適当な漢字を当てはめて、邦訳しているような用語も非常に多い。

 

つまり、読み仮名だけでなく、専門用語を邦訳した際の、漢字の選び方においても法則に一貫性がないため、様々な混乱の原因となっている。

 

そもそも、中医鍼灸用語は極めて専門性の高い中国語であるため、日本語の常用漢字外の文字が多く使われている。つまり、中国語独自の意味が込められているから、思い込みで日本の常用漢字に変換したり、妄想を根拠に邦訳してしまうと、本来の意味から逸脱してしまう可能性が高い。

 

本来、中医鍼灸用語は中国語の文字をそのまま使用し、読み仮名も、中国語に即した方法で考案すべきである。もちろん、現代中国語では簡体字を用いているから、中国語未学習者でも理解しやすいよう、繁体字に変換すべきではあるが、専門用語であるから、読み仮名に関しては、ピンインに従うか、音読みで統一する方法でなければ不合理である。

 

「腧穴」に関連して、日本鍼灸界では誤った知識が流布されているため、以下に正しい専門知識を記しておく。

 

「腧」は古代中国では「俞」または「兪」と記した。「输(輸)」は通仮字で、「腧」の代用とされた。そのため「腧穴」、「输穴」、「俞穴」は本来同義なのだが、中医理論における輸穴は独自の意味を持っている。

 

つまり、「腧穴」は穴位の総称、「輸穴(输穴)」は五輸穴、「俞穴」は背兪穴を指す。

 

「腧」の「月」は身体や筋肉を、「兪」は「捷径(近道の意)」を示し、「月」と「兪」を合わせると、「身体内部への近道」の意味となる。近道には入口があり、その入口を「穴」として、「腧穴」と称した。

 

「腧」、「兪」、「俞」はみなyúまたはshùと発音するが、yúと発音する場合は意味が異なる。中医名詞として読む場合は、基本的にshùと発音する。

 

ちなみに、「输」はshūと発音する。また「腧穴」は経穴、経外奇穴、阿是穴、耳穴の四種に分類される。

 

以上は中医鍼灸用語における、いわば基礎知識であるが、日本鍼灸界で理解できている鍼灸師は極めて少ないと推察される。