インチョーのブログ(表)( ´∀`)

「東京つばめ鍼灸」インチョーの独り言ブログ。「南北相法」の翻訳ページはこちら→http://www.varianttuning.com/index.html

真夜中の訪問者

f:id:tokyotsubamezhenjiu:20161214170431j:plain

島根にいた時の話。

 

まだ松江の北京堂が某マンションの6階にあった頃の話だ。

 

その当時、私は鍼灸院で寝泊まりしていて、治療には使っていない4畳半くらいの部屋を寝床にしていた。

 

しかし、冬のある日を境に、真夜中に怪奇現象が起こるようになった。

 

毎日深夜2時を過ぎると、誰もいないのに「ピン、ポーン…、ピン、ポーン」とインターホンが2回鳴るようになったのだ。奇妙なことに、インターホンは必ず2回鳴り、1回目と2回目の間隔も、だいたい10秒と決まっていた。

 

最初の数日は半ばしか覚醒していないこともあり、隣の部屋のインターホンがなっているのであろうと無視していた。しかし、よくよく聞いてみれば、隣の部屋ではなく、自分の部屋のインターホンが鳴っていることに気が付いた。しかも、連日決まって丑三つ時に鳴るもんだから、次第に気味が悪くなった。

 

寝床は玄関を入ったすぐ右側にあり、狭い部屋の西側には外の通路に向かって出窓が付いていた。出窓にはカーテンが無かったから、夜は部屋の電気を消すと、外の通路の蛍光灯の淡い光が出窓を通して部屋の中に差し込んでくるような塩梅だった。だから消灯後に誰かが通路を通れば、人影が部屋の中をサッとかすめるから、すぐに気が付くようになっていた。

 

鍼灸院のあった部屋は606号室で、6階には607号室までしかなかった。ゆえに通常、この606号室の前の通路を夜間に通るのは、私か607号室の住民だけだった。ちなみに607号室の住民がこの通路を通る時は、その前後に必ずドアの開閉音が壁伝いに聞こえてくる。また607号室は角部屋であって、607号室の前には階段が設置されていたが、エレベーターは606号室側に設置されていたから、夜間に606号室の前を通り抜ける人は、基本的に我々以外、他にいなかった。

 

606号室の玄関からはエレベーター、階段ともに10mくらい離れていて、仮に誰かがピンポンダッシュをしたとしても、すぐにドアを開ければ、その姿を目撃することが可能なはずだった。だから毎晩インターホンが鳴りそうな時間になると、息を殺しつつ外の様子をうかがっていた。しかし、インターホンが鳴った瞬間にパッと飛び起きてドアを開けたとしても、外に誰が立っているということは1度もなかった。とにかくドアを開けるたびに背筋がゾッとして、しばらくマトモに眠れない日々が続いた。

 

f:id:tokyotsubamezhenjiu:20170909221410j:plain

その頃は徐々に患者が増えていて、九州や四国、京阪神から来院する人がチラホラいた。未熟ながらも私は少し天狗になっていたもんだから、「とうとう亡者も私の治療を求めてやって来たのだろうか」などと、密かにカルトな思考を巡らせたりしていた。

 

インターホンは毎回鳴り方が決まっていて、「ピン、ポーン」と1度鳴ったあと、10秒くらいしてからまた「ピン、ポーン」と鳴るのだが、その鳴らし方がいかにも生身の人間的で、あたかも「中の様子を伺いつつ2回目を押す」というような具合だったもんだから、余計に気味が悪かった。

 

そんな日が何日か続いたあと、インターホンが鳴る日と鳴らない日がくるようになった。まったく奇怪なことだと思ったが、おそらくこれは魑魅魍魎の類によるものではなく、何か物理的な要因があるのではないかと考えるようになった。

 

このマンションがある松江市中心部は、沿岸部からは離れているものの、日本海に面しているため冬場は海風が強く、雪が降ると吹雪くことも珍しくなかった。インターホンが鳴るのは、決まって吹雪いた次の日で、しかも日中晴れた日の夜だった。どうやら晴れた日が続くと、インターホンは鳴らなくなるようだった。

 

606号室の玄関は西向きであったが、宍道湖方面からの風がマトモに吹きつけるような構造になっていて、吹雪けばインターホンの上に雪が積もる、ということがしばしばあった。

 

もしやこれはと思い、ある吹雪いた日の翌日、インターホンの上に積もっていた雪を除(の)けておいてみることにした。すると、その日は日中晴れていたにも関わらず、いつもの時間を過ぎても、インターホンが鳴ることはなかった。きっと、インターホンの上に積もっていた雪が日光で溶けて水滴が内部に侵入し、うまいこと通電してインターホンが鳴っていたのだろうな、と考えた。

 

よくよく観察してみると、インターホンと壁の隙間を埋めていたシーリング剤には、経年劣化ゆえか肉眼では確認しがたいくらいの小さな亀裂がみられた。結局、その日のうちにマンションの管理人に業者を呼んでもらい、劣化したシーリング剤の隙間を埋めてもらった。

 

それ以来、吹雪いた日の翌日に太陽が顔を出しても、インターホンが鳴ることは無くなった。島根の風と太陽は侮れないな、と思った。いや、本当に侮れないのは、望んでもいないサプライズを与えてくれる、オンボロビルディングだろうか。

 

これで私はイソップ物語の如き日々から平穏な夜を取り戻し、安眠できるようになったわけだが、その後しばらくは、後味のよくない夢を見たような気分が続いた。