東京つばめ鍼灸院長のブログ( ´∀`)

完全無所属、無宗教、東京つばめ鍼灸院長が不定期に更新中。

紅麹について

紅麹(紅曲)は中国では千年以上の歴史があり、紅麹に関する記述が最も早くみられるのは五代末期に陶谷が記した『清異録』が最初とされる。

 

薬用としての紅麹について記された文献は、元代の吴瑞が1392年に記した『日用本草』が最初とされる。吴瑞は『日用本草』の中で、「酿酒则辛热,有小毒,发肠风痔瘘、脚气、哮喘痰嗽诸疾。(紅麹の醸造酒は性質が辛熱であり、小毒があり、血便や痔瘻脚気、喘息、痰を伴う咳などの諸病を発症する)」と記している。

 

16世紀には、李時珍が『本草綱目』の中で、「红曲本草不载,法出近世,亦奇术也。(紅麹は神農本草経には記されておらず、製造方法が考案されたのは近世、まさに奇薬である)」と記している。

 

李時珍は紅麹について、「食物は胃に入ると中焦の湿熱薫蒸と精気の影響を受け、自ずと赤みを帯び、臓腑経絡へ巡り、気血に変化する。これは人体、自然の奥深さを象徴している。人が作る紅麹も白米が蒸気の湿熱を受け、赤色へ変化する。これは自然の色であり、ずっと変化することがない。紅麹の発明は人類が自然の観察に長け、それをうまく利用することができた結果である。紅麹の性質は甘、温、無毒であり、主な効能は消食活血(食物の消化を助け、気血の流れを改善する)と、健脾燥胃(脾気を補い、胃熱を鎮める)である。紅麹の醸造酒は気血の流れの改善や、マラリア、打撲、生理痛、産後出血などに効果があり、特に紅麹をすり潰して酒に入れて飲むと効果が良い。」と記している。

子午流注について

子午流注は古代中国を起源とする、十二時辰(十二刻限)における十二経脈運行の盛衰について説かれた、取穴法の一学説である。人体の気血は経脈中を流れる時、時間の変化に伴い、その盛衰開闔にも変化を生ずる。そのため、十二経脈の五輸穴を基礎とし、組み合わせ日、時の十干、十二支陰陽(消長と転化)を考慮した上で、何月何日の何時にどの穴位を取穴すべきかを決定する。古代中国では、人は天地と不可分な存在であり、自然の一部であると考えていたため、「順応天時(自然の法則に従うこと)」を重要視し、一日を十二時辰に分類していた。十二経脈および各臓器には、十二時辰に対応した盛衰があり、時辰と臓器の関係を正しく理解することが養生の要である。

※子午流注…「子午」は十二支の最初と最後を示しているが、本来の意味は「始まりと終わり」である。つまり、ギリシャ文字の「ΑΩ」や、英字の「A to Z」と同様に「永遠」や「再生」を暗示している。「流注」は「流れ注ぐ」の意。

※盛衰開闔…「開闔」は「開閉」と同義。

 

1:丑時(01∶00~03∶00)

気血が肝経に流れ込む時間帯である。肝の働きが旺盛となり、肝血が新生される。肝臓はこの時間帯に解毒と排泄能力が最大となるため、身体は睡眠状態にしておくことで、肝臓の代謝を全うさせ、肝胆を養うことができる。『黄帝内経素問・五蔵生成篇』には「人卧血归于肝(人は休息することで肝に血が戻る)」とあり、肝を養うためにはこの時間帯に熟睡しておくことが重要である。人の思考と行動は肝血の如何によるところが大きく、古い血を回収し、血液を新生させることで、脳と身体を活性化させ、肝臓病を防ぐことができる。 血は陰に属し、斂蔵を主る。「丑」と「牛」は同義であり、この時間帯に発生する気は比較的強いが、気は上昇するのみで下降はできず、収斂を制限することによって肝胆の機能が最良となる。「丑」は「手」の象形であり、何かを掴もうとしているが寒さで掴めない手の形を表している。また、肝は「将軍の官」であり、勇敢で戦いに強いだけでなく、出撃には常に慎重である。「丑」は十二月に応じる。

 

2:寅時(03∶00~05∶00)

気血が肺経に流れ込む時間帯である。『黄帝内経素問・経脈別論篇』に「肺朝百脉(すべての経脈は肺に通じている)」と記されているとおり、肺の働きが旺盛となり、肝に貯蔵されていた新鮮な血液が百脈(全身の経脈)へ運ばれ、新たな一日を迎える。重病人が危篤となりやすい時間帯であり、患者は往々にしてこの時間帯に死を迎える。徹夜せざるを得ない場合は、この時間帯を超えないようにした方が良い。古代中国における「正月建寅」と「肺経」は共に「始まり」の意味があり、「陽気の始まり」、「人の活動の始まり」を示す。寅時は身体の各部位が静から動に転じ始めるため、各部における気血の要求量が増加し始める。そのため、「相傅の官」は「宣発」と「粛降」を主るが、上手く機能しなければ心臓の負担が増加する。実際、心疾患患者は深夜3~4時に死亡することが多い。老人がこの時間帯に目覚めやすいのは、気血量が不足しているからである。ゆえに、心機能が衰えている者は極端な早起きを避けるのが無難である。「寅」は一月に応じる。

※正月建寅…陰暦における1月のこと。寅月、正月、建寅、正月建寅はすべて同義。

※相傅の官…「傅」は補助、「相」は宰相の意。朝廷中の宰相に例え、君主を補佐する役割がある。肺が心臓の左右で心臓の機能を補助する様子を例えた言葉である。

 

3:卯時(05∶00~07∶00)

気血が大腸経に流れ込む時間帯である。大腸の働きが旺盛となり、排泄しやすくなる。起床に最も適した時間帯で、起床後すぐに白湯を飲めば、大腸が適度に刺激され、便や毒素が排出されやすくなる。肺と大腸は表裏関係にあり、肺気が十分でないと大便が排出されない。そのため、中医は患者に「二便(大小便)」について問診することがあるが、これは表裏関係にある心肺機能の如何を調べることに役立つ。例えば、心血が旺盛であれば、大便は太く長いが、衰えていれば、細く短い便となる。つまり、心肺機能と排便機能は相関関係にあり、軽度な便秘に下剤を用いた場合、人体の原気(元気)を著しく消耗する可能性がある。「卯」は二月に応じる。

 

4:辰時(07∶00~09∶00)

気血が胃経に流れ込む時間帯である。胃の働きが旺盛となり、消化しやすくなる。朝食に適した時間帯で、朝食では1日に摂取すべき栄養の30~50%を摂るようにすると良い。辰時は今まさに小さな陽気が大きくなろうとしている刻限である。胃は「後天の本(気血生化の源)」であり、質の良い朝食習慣を身に付けなければ陽気が正常に育まれず、胆汁が新生されないなど、身体は大きな障害を受けることになる。また、胃経の異常は胃痛の他、脛や膝の痛み、吹き出物として現れることがある。自然の法則に従って食事をし、睡眠をとっていれば、病気になりにくい。現代人は夕食を豪華にし、朝食と昼食を軽視しているため、胃を壊しやすいのである。「辰」は三月に応じる。

※後天の本…脾または脾胃のこと。「本」は根源、源、中心の意。人は出生後、外界から飲食物などを取り入れて栄養とし、生命活動を維持している。後天的に摂取された「水(飲み物)」や「谷(穀物)」が脾胃で消化されることで、後天の精(水谷の精)となり、気、血、津液に変化して全身に運ばれ、栄養となる。

 

5:巳時(09∶00~11∶00)

気血が脾経に流れ込む時間帯である。脾の働きが旺盛となり、栄養を吸収しやすくなる。中医学では、脾は「後天の本(気血生化の源)」であり、「運化(食物の消化と輸送)」を主る。それゆえ、朝食をしっかりと食べることで脾胃が健全化し、栄養の消化および吸収が正常化される。脾が健全であれば筋肉が発達するが、脾に異常がある場合は痩せたり、よだれが出たり、水腫となる。「巳」は四月に相当し、陰気が陽気に取って代わり、木々が青々と茂りつつある様子を表している。脳が最も活性化する時間帯であり、仕事や勉強をする時間として最適である。

 

6:午時(11∶00~13∶00)

気血が心経に流れ込む時間帯である。心の働きが旺盛となり、全身に血液が循環しやすくなる。この時間帯はゆったりと昼食をとり、食後は眼を閉じて静かに座ったり、10分ほど仮眠すると良い。午時は陰気が生まれ、陰陽が互いに交わり、陰気と陽気が入れ替わる時間帯であり、人体における天地の気の転換点である。心は太陽、腎は太陰で、心中の陰は真陰、腎中の陽は真陽である。また、心は君主の官、陽中の太陽であり、上焦(上半身)にあり、火の臓器である。腎は作強の官、陰中の太陰であり、下焦(下半身)にあり、水の臓器である。つまり、心と腎は対立関係にあるが、協力関係にもあり、共同で人体の陰陽平衡を維持している。これを心腎相交または水火相済と呼ぶ。中医学では、心と腎が互いに協調し、心腎が共に健全であることが、全身の陰陽平衡における要であるとしている。脾胃や肝肺は、主に心腎相交を補助している。陰陽交感(陰陽が互いに交わる様子)については『黄帝内経素問・陰陽応象大論』に「地气上为云,天气下为雨,雨出地气,云出天气(地の気が上昇して雲となり、天の気が下降して雨となり、雨から地の気が生じ、雲から天の気が生じる)」とある。これを心腎相交に例えれば、心陽は腎陰の求めに応じて下降し、腎水が冷えすぎないよう腎水を暖め、腎陰は心陽の求めに応じて上昇し、心火が熱くなりすぎないよう心火を冷やす。また、子時と午時は共に心腎相交(陰陽が交わる)時間であるため、子時は十分な睡眠をとり、午時は仮眠など軽い休息をとることで、精、気、神を十分に養うことができる。「午」は五月に応じる。

 

7:未時(13∶00~15∶00)

気血が小腸経に流れ込む時間帯である。小腸の働きが旺盛となり、栄養を吸収しやすくなる。心と小腸は表裏関係にあるため、心疾患の症状が先に小腸経に現れる場合がある。小腸経の異常は下痢、消化不良、頸部痛、頭痛、耳鳴り、リウマチ、下腹部膨満感、下腹部痛、多汗、便秘、肝斑(顔面部のシミ)として現れやすい。「未」は六月に応じる。

 

8:申時(15∶00~17∶00)

申時は陽気が減少、陰気が増加し、気血が膀胱経に流れ込む時間帯である。膀胱の働きが旺盛となり、小腸から流れてきた水分や全身の火気(熱)を排泄しやすくなる。膀胱経は足太陽の脈で、前頭部から頭頂部を通過するため、気虚(正気の不足)または気実(邪気の過剰)となれば、記憶障害や判断力低下、意識障害(傾眠傾向)、前後頭部痛、眼、耳、鼻の異常などが起こりやすくなる。中国には「朝而受业,夕而习复(朝に授業を受けて、夕方に復習する)」という格言がある。膀胱経が活発になれば、気血が脳へ循環しやすくなるため、健康な人はこの時間帯に勉強をしたり、読書をすることで、学習効率を高めたり、記憶を定着させやすくなる。また、太陽の脈は気化を主るため、白湯などぬるめの水分を多く摂取したり、水分量の多い果物を少し食べることで、膀胱の排毒機能を高めることができる。「申」は七月に応じる。

 

9:酉時(17∶00~19∶00)

気血が腎経に流れ込む時間帯である。腎の働きが旺盛となり、臓器が作り出した一日分の精気を腎に貯蔵しやすくなる。腎は本来は原気(元気)を貯蔵する臓器である。「酉」は「実る、成熟する」の意味で、八月に応じる。卯時(5~7時)を一日あるいは一年の始まりであるとすれば、酉時(17~19時)は一日あるいは一年の終わりである。したがって、この時間帯は一年の内の収穫時期に相当し、腎を養う最適な時間である。この時間帯に微熱が出る場合は腎の精気貯蔵機能に問題がある。特に青春期あるいは新婚の男性は房事における注意が必要である。

 

10:戌時(19∶00~21∶00)

気血が心包経に流れ込む時間帯である。心包の働きが旺盛となり、心の働きが今一度高まりやすくなる。相生関係(心火生胃土)により、消化能力も高まりやすくなる。心包とは、いわば心臓外膜組織であり、主に心臓を保護し、心臓の圧力を減少させ、脳を睡眠状態へ導く作用がある。基本的に、心は心包に護られているため、邪気の影響を受けにくい構造になっている。先に邪気の影響を受けるのは心包である。したがって、心疾患の前兆は心包経の異常として現れることが多い。手の中指に異常を感じれば心包経、手の小指に異常を感じれば心経、手の親指に異常を感じれば肺経を治療する。この時間帯は陽気が陰に取り込まれ、陰気が最大となる。心包経に属する膻中は喜びや楽しみを主るため、この時間は心穏やかに、楽しく過ごすのがよい。「戌」は九月に応じる。

 

11:亥時(21∶00~23∶00)

気血が三焦経に流れ込む時間帯である。三焦の働きが旺盛となる。「三焦通百脉(三焦は全身の経脈に通ずる)」という格言があるとおり、全身を休息させるため、就寝すべき時間帯である。百歳を超える老人は、概して21時前には眠りにつくものである。三焦の「焦」の上部「隹」は尾の短い小鳥を表し、下部「灬」は火を表し、小鳥が火であぶられている様子を示している。「不温不火(冷え過ぎず、温めすぎず)」という言葉のとおり、三焦には小さな火で体を一定の温度に保温しておく作用がある。また、三焦には身体の上(横隔膜より上で心、肺を含む)、中(横隔膜下から臍上までで脾、胃を含む)、下(臍から下で肝、腎、大小腸、膀胱を含む)を区分する概念があり、その働きは主に原気(元気)を全身に送ることと、水液の通りを良くすることである。これがつまりは「三焦通百脉」と呼ばれる所以である。『説文解字』においては、「一」は始まり、「亥」は終わりを表す。甲骨文字においては、「亥」は男性が妊娠した女性を抱擁している様子を意味しており、陰気が陽気に転じ、大地が再び微弱な命を生み出さんとしている様子を表している。それゆえ、この時間帯に眠ることで、身体中の細胞が新生しやすくなる。「亥」は十月に応じる。

 

12:子時(23∶00~01∶00)

今日と明日の臨界点であり、子時は「子夜」、「中夜」、「人時」とも称する。陽気が徐々に増え、気血が胆経に流れ込む時間帯である。胆の働きが旺盛となり、胆汁が新生される。中医理論においては、気は常に体内での昇降と出入を繰り返しており、この昇降出入に異常を来すことで、臓腑経絡の機能活動に乱れが生じ、病気になると考えている。明代の医学家であった張介宾の「子后则气生,午后则气降(子時に気が生まれ、午時に気が下がる)」という言葉や、『黄帝内経素問・六節蔵象論』の「凡十一脏,取决于胆也(以上十一臓器すべての機能が発揮されるか否かは、胆の陽気上昇の如何によって決まる)」という言葉のとおり、子時はいわば春であり、陽気が養われて上昇し、万物が芽吹く時であり、胆の陽気上昇がなければ、すべての臓器に陽気が至らず、陰陽平衡が崩れ、全身の不調を招く可能性がある。睡眠と寿命は密接な関係にあり、23時前までに就寝することで、陽気が養われ、全身へ陽気が循環し、長寿となる。「胆有多清,脑有多清(胆嚢の代謝が正常であれば、脳の状態は明晰である)」という格言があるとおり、23時前に寝る習慣がある者は顔色の血色が良く、頭脳明晰であるが、徹夜する習慣がある者は顔の血色が悪く、頭の働きが鈍い。「子」は「鼠」の意があり、鼠が活発に動き出す様子や、小さな陽気が活発となりつつある様子を表している。「子」は十一月に応じる。

鍼灸治療にも副作用がある

日本では古来より、鍼灸事故に関する文献が少なく、事故に関する情報が的確に共有されていないため、現在においても類似事故が繰り返されている。中国の某文献によると、世界的にみて、鍼灸事故で最も多いのはいわゆる暈鍼で、刺鍼中や施灸中、刺鍼後にみられるめまいや脳貧血、頭痛、吐き気、卒倒などが主な症状である。重症で最も多いのは誤刺による気胸で、実際、私の周囲の鍼灸師ヒアリングしただけでも、過去に気胸を起こしてしまったことがある、と密かに自白する鍼師が少なくない。

 

私が鍼灸学生だった2008年頃に採用されていた教科書の1つである、「はりきゅう理論」には、「リスク管理」という項目が10ページほど設けられていたものの、中国の医学部で使われていた教科書と見比べると、鍼灸事故や鍼の禁忌について、ほんの僅かしか記されておらず、過去の事故や最新の臨床現場からフィードバックされた実践的内容は皆無だった。そのため、中国の医師に比べ、日本の鍼灸師は先人が起こした事故から学ぶ機会が少なく、免許取得後も刺灸事故に関する知識レベルが低いままで、同様の事故を繰り返してしまっているのであろうと推察される。

 

鍼の本場中国では、古来から医師が鍼灸を業としており、すでに1960年頃から鍼灸事故についての研究が進められている。実際、中国では過去の事故についてまとめた研究書や、穴位の安全深度と危険深度を細かく研究した解剖書などが多数出版されている。日本では未だ普及していない穴位ごとの断層解剖書なども、中国では当たり前のように最新刊が出版され続けている。

 

中国では、上海中医薬大学終身教授である厳振国が、1970年代に経穴解剖学科と中医応用解剖学科を創設したことにより、经穴断面解剖学や经穴层次解剖学、经穴CT扫描图像解剖学などの研究が盛んになったと言われている。その後、医師の鍼灸事故に対する意識が高まると同時に、病巣深部への適切な刺鍼法が研究され、鍼用具の改良・進化も飛躍的に進んだ。その結果、瞬時に痛みを無くすことが可能な小针刀疗法や浮针疗法、黄帝针、超微针刀疗法、铍针疗法などといった画期的な刺鍼法が発明され、特に2000年代にかけて、科学的で再現性が高く、安全な鍼灸術が普及するようになった。

 

一方、日本においては、浅野周先生が2006年に翻訳した刺鍼事故の本以外、特にこれといった本は出版されていない。そのため、日本では鍼灸事故に関する研究が全く進んでおらず、未だ刺鍼深度について漠然と議論しており、穴位断層解剖の研究も全く進んでいない。また、鍼灸事故の研究が成されねば、当然ながら安全かつ効果的な刺鍼法が確立されるはずもなく、例えば、比較的軽症な慢性腰痛や慢性頭痛の類でさえ、科学的かつ再現性のある刺鍼法によって1回で劇的に改善させたり、3回以内で完治させることができる鍼灸師が皆無に等しく、学会で「どうすれば慢性腰痛や慢性頭痛を治せるのか?」などと議論しているような有様である。鍼灸事故に関しても、ヤフーニュースなどで定期的に報道されているものの、鍼灸団体による事故の詳細な検証や業界への注意喚起、事後報告などは慣例的に行われておらず、事故が発生したことさえ知らない鍼灸師や業界関係者も少なくない。ちなみに、浅野周先生が翻訳した刺鍼事故の本は中国で1980年代に出版された古い本で、記されている情報があまりにも古いため、現在、私が2000年代に出版された鍼灸事故の某書を翻訳している。

 

日本で未だに鍼灸事故が絶えないのは、過去の事故からのフィードバックがなく、業界や鍼灸師自身の各穴位に対する解剖学的知識や、刺入深度や刺入方法、施灸法に関する基礎的な知識の欠如が主因と考えられる。実際、日本の鍼師は刺鍼深度に明確な基準を備えていないことが多く、己の感覚のみを頼りに漠然と刺鍼しているとか、安全深度が同じはずの穴位においても刺鍼深度が一定していないとか、浅い刺鍼では効果がないと言って無暗やたらに刺鍼深度を深くしすぎてしまうとか、様々なケースが見られる。

 

また、日本では、鍼灸事故に関する文献が極めて少ないため、鍼灸の副作用についてよく理解していない鍼灸師が多く、何の根拠もなく、「鍼灸には副作用がありません!安全です!」などと喧伝している自称プロが少なくない。

 

例えば、鍼にはいくつかの副作用がある。一般的な副作用は強刺激の留鍼による迷走神経反射で、めまい、吐き気、倦怠感などが多くみられる。その他、一過性の疼痛増悪や内出血、鍼依存などがみられることもある。臨床経験を積んでゆく過程において、鍼灸の副作用をいかにして避け、最大限の効果を上げるかは大きな難題であり、賢明な鍼灸師においては、昔から解決すべきテーマの1つとなっていた。

 

長時間または長期間にわたる留鍼(鍼を皮下へ刺したまましばらく置く刺鍼法)は、血管の自律的収縮・拡張作用を阻害する可能性がある。留鍼の刺激強度が過剰であると、施術期間が長期にわたるほど、偏頭痛や血管拡張性頭痛が悪化したり、各種疼痛が増悪したり、最終的には長期の断続的侵害刺激による脳機能の低下(鬱や強い倦怠感、鍼依存など)がみられることがある。

 

上海市中医薬科技情報研究所所長で、著名な中医である張仁が2004年に記した『针灸意外事故防治』には、“针灸依赖症(鍼灸依存症)”について、以下のように記してある。

 

【原因】

(一)年龄因素(年齢的要因)

   针灸依赖症的确切原因不明。经对39例针灸依赖症分析结果表明,与患者的性别、职业、文化程度关系不大,似多见于40~49岁的年龄段和已婚者。(鍼灸依存症の正確な原因は不明である。39例の鍼灸依存症の分析結果によれば、患者の性別、職業、教養レベルとの関連はあまりみられず、40歳から49歳までの既婚者に多くみられた)

(二)其他因素(その他の要因)

    一般来说与以下情况有关。(一般的には以下の状況と関連がある)

  (1)因患功能性疾病,而寻求针灸治疗手段者。(機能性疾患を患っているため、鍼灸治療に活路を求めてきた者)

  (2)慢性病患者,用他法效果不明显,曾经经针灸治疗而取得一定疗效者。(慢性病患者で、他の治療法では明らかな効果が見られず、かつて鍼灸治療で一定の効果を得ている者)

  (3)有神经质或心里素质不稳定的患者。(神経質な素質がある、または心理的素質が不安定な者)

  (4)因好奇,想与其他治疗手段作比较者。(好奇心で、他の治療との効果を比較したい者)

     据作者临床观察,以前三者多见。形成针灸依赖症,还要有两个先决条件:一是医生必须为病者所信赖,二是针灸治疗确有一定效果。(著者の臨床経験では(1)から(3)のケースが多く見られた。鍼灸依存症の形成には、さらに以下2つの条件を満たすことが必要である。1つ目は医師が患者から信頼されていること、2つ目はその鍼灸治療に一定の効果が確実にみられること、である)

 

また、張仁は、「鍼灸依存症患者は、鍼灸に対する強烈な心身依存や、治療後の多幸感や疼痛、不快症状の軽減または消失などがみられ、多針、多灸、強刺激を好む傾向にある。さらに、患者は一旦鍼灸治療を中止すると症状が悪化し、口実を見つけて能動的に鍼灸刺激を求めることがあり、鍼灸治療歴が長いほど依存は起こりやすい」とも記している。

 

鍼灸依存症は、主として断続的かつ強烈な留鍼刺激による脳への侵害刺激と、脊髄への反射(軸索反射)で起こる、半ば強制的な血管拡張作用によって誘発されると考えられる。そのため、刺激量を適切にコントロールすれば、鍼灸治療の副作用を避け、ベネフィットを最大限に享受することが可能となるが、施術が不適切であれば、患者は不利益を被る可能性がある。

ぎっくり腰の根因は腸骨筋にあり(ギックラー必読の巻)

毎年、季節の変わり目と年末は、ぎっくり腰患者が増加する。ぎっくり腰が増加する原因は、急激な気候の変化、過労や過食、精神的ストレスの増加、冷え、運動過不足などが影響していると推察される。

 

最近はギックリ腰専門を謳う鍼灸整骨院や整体院、カイロプラクティック院なども増えてきた。しかし、実際のところ、長年ぎっくり腰に悩まされ、メディアで著名なクリニックや専門外来、大学病院リハビリ科、ゴッドハンドがいると噂の鍼灸院や整体院へしばらく通院したものの、一向に完治する気配が見えず、ぎっくり腰とは一生付き合ってゆくものなどだと諦めている患者が多い。

 

数年前から、私の師匠が開発した北京堂式が広く浅く普及した影響で、ぎっくり腰と言えば大腰筋というイメージが一部のギックラーの間で定着してきており、巷では「大腰筋をもみほぐします!」などと嘯く整体師も増加している。しかし、解剖学を多少なりとも心得ていれば、胸椎下部から骨盤腔内を通過し、大腿骨骨頭小転子へ付着する大腰筋をもみほぐすように触知することは物理的に不可能であるから、左様な謳い文句は医学的な知識不足や思い込みなどによる虚言または妄言である可能性が高い。

 

他の病態についても同様に言えることであるが、世の常として、藁にも縋る思いのジプシー患者を喰いものにしようと、詐欺的行為で患者を集める輩はギックリ界隈にも多数存在する。それゆえ、患者が無知であると、悪徳業者に容易に搾取され、ぎっくり腰が一向に改善しないばかりか、貴重な時間と治療費が無駄に浪費され、結果的に気苦労で交感神経優位となり、夜も痛みで眠れず、ぎっくり腰が慢性化して、腰椎周囲の筋肉が萎縮し、腰椎椎間板症や腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎分離症など、本格的な腰部疾患へ移行するリスクが高まる。

 

しかしながら、現代の患者が頼りにする主な情報源はネットであって、多くの患者がぎっくり腰を治すべく、より良い治療法を求めて、ネットサーフィンを続けるわけだが、ウェブ上の口コミはヤラセばかりで、実際に、検索上位に表示されるサイトも業者によるSEO対策でGoogleアルゴリズムに迎合した虚像ばかりであり、ぎっくり腰患者が腕の良い治療家に出逢える確率は極めて低い。また、ひと世代前に主な情報源であったテレビも、ネット同様にヤラセばかりで、メディアに頻繁に登場する自称業界人やプロフェッショナルも、実際には役立たずの臨床家や研究者であることが少なくない。考えてみれば簡単なことである。例えば、鍼灸に関して言えば、毎日多くの患者の治療に追われているような真の臨床家は、ツイッターを日に何度も更新したり、メディアに頻繁に出演したり、You Tubeで次々に動画をアップロードするヒマなどあるはずがない。つまり、世間で言う有名は、実際の臨床レベルを保証するものではなく、むしろ、世間的に有名であればあるほど、自ずと治療家としての胡散臭さを露呈させている可能性が高い。

 

それゆえ、1人でも多くの悩める患者が救われるよう、このブログでは、業界の真実を的確に露わにし、患者の知識武装を促し、悪徳業者や悪徳鍼灸師を自主的に避けられるよう、実践的内容を細かく記している。

 

おそらく、これまで、ギックリ腰の原因を明確に特定し、ある程度の効果を出すことができたのは、北京堂鍼灸創始者で、大腰筋刺鍼開発者の浅野周先生だけであろうと思う。実際、現代において、ぎっくり腰で最も効果があり、評判が良かった唯一の手技は、北京堂鍼灸の大腰筋刺鍼くらいで、多くの患者や鍼灸師仲間にヒアリングした限りでは、ぎっくり腰に即効性があった治療法は、北京堂以外で聞いたことがなかった。私も13年前に浅野周先生の内弟子となり、鍼灸院を独立開業して10年間ほどは、ベーシックな北京堂式でぎっくり腰患者を治療していた。しかし、大腰筋へ的確に刺鍼しているにも関わらず、術後、帰宅途中や帰宅後に再びぎっくり腰になったり、一時期良くなったが根治せずギックリ腰を繰り返すと訴える患者が少なからず存在し、ぎっくり腰における刺鍼法の問題点や、ぎっくり腰を根治させる方法を模索していた。

 

そもそも、「ぎっくり」の正体に関しては、未だに医学的解明がなされておらず、病院でも完治させる方法が存在しない。病院ではせいぜいブロック注射を打つか、鎮痛剤を投与して安静を促すのが関の山である。もちろん、魔女の一突きと呼ばれる如き激痛が腰に走ったら、急性膵炎や尿管結石、腰椎圧迫骨折などによる副次的急性腰痛である可能性もあり、先ずは病院を受診し、各種画像検査などによる医師の診断が必要である。その後、単なるぎっくり腰であるとの医師の診断が下されたら、長鍼を使いこなせる腕のよい鍼灸師に治療してもらうのが無難である。

 

「ぎっくり」の正体に関しては諸説入り乱れているが、当院では今のところ、「ぎっくり」の正体は軟部組織同士(筋膜や骨膜、神経、血管など)の広範囲にわたる、癒着による一時的可動域制限である、という結論に達している。一般的に、軟部組織は疲労や運動の過不足、外傷などによって局所的炎症や虚血、鬱血などが起こり、のちに炎症が長引いたり、炎症過度になると、組織同士が癒着し、果てには瘢痕化、骨化に至るとされる。

 

実際、筋疲労や肉離れによって、腓腹筋内側に度重なる炎症をおこしたり、外側広筋上部や三角筋中部へのウイルス注射で急激な炎症を起こしたりすると、炎症が治まったあとに局所的硬結(シコリ)が形成されることがある。ぎっくり腰によって硬結が形成されることは稀で、第三腰椎横突起症候群のように、大腰筋上部と横突起摩擦部に硬結が生じることはあるが、これがぎっくり腰の原因となったケースはあまりない。つまり、激しいぎっくり腰は主に大腰筋下部や腸骨筋の炎症、癒着によるものと考えられる。もちろん、北京堂の理論のとおり、大腰筋刺鍼のみでぎっくり腰が解除されるケースも多いが、私が診てきた限りでは、大腰筋刺鍼だけでは一過性に改善しても、術後1年以内の再発率が極めて高く、毎年、同じ患者がぎっくり腰の治療を求めて列をなす、という悪循環に至る可能性が高い。

 

前述したとおり、当院の理論においては、様々な「ぎっくり」や「引きつり」などの原因は、主に軟部組織損傷、局所的癒着であると考えているため、いわゆる「寝違え」、「肉離れ」、「筋(すじ)を違(たが)えたような感じ」も、すべて「ぎっくり」と同じカテゴリーに分類される。したがって、このような病態への基本的な刺鍼法はすべて同じで、当然ながら病態の根因が同じであるため、刺鍼法が同じであれば、施術後の結果も同様となる。

 

当院で「ぎっくり」、「ひきつり」、「寝違え」、「肉離れ」、「筋(すじ)を違(たが)えたような感じ」がある部位へ刺鍼した場合、通常は術後すぐ、または12~36時間程度で症状が消失または明らかな軽減を見せる。それゆえ、様々な治療院をジプシーしてきた患者は、実際に当院で施術を受けると、その著しい効果にみな驚く。しかも、薬剤のような副作用がなく、術後すぐに劇的変化が現れるケースがほとんどであるため、「魔法のようです!」とか、「鍼ってこんなに効果があるんですね!」などと叫ぶ患者が珍しくない。

 

ちなみに、当院での術後3ー5週間程度は、細胞レベルでの変化が継続すると推察され、施術の効果が遅効性に現れることもあるため、術後に著しい効果が見られなくても、1か月近く経過したのち、パッと症状が消失するケースもある。また、術後は多少のダウンタイムがあり、特に腓腹筋へ刺鍼した場合、2-3日歩きにくさが続いたのち、症状が消失するケースが多い。基本的には患部の状態が悪いほど、ダウンタイムが強く、長く続くことが多いが、初期は鍼治療を1週間に1回程度のペースで継続すれば、回復は徐々に早まってゆくのが一般的である。刺鍼によってある程度、患部の炎症が治まり、癒着が改善されてくれば、しばらく鍼治療をせずとも、良い状態を保てるようになる。

 

鍼灸師の間では、腸骨筋への刺鍼が最も難しいと言われており、実際、多くの患者が証言するには、得気があるように的確かつ素早く刺鍼できる鍼師は極めて少ないらしい。そもそも、北京堂鍼灸で指導を受けた鍼灸師以外、腸骨筋へ刺鍼しようと思い立つ鍼灸師が皆無に等しい。ちなみに、腸骨筋刺鍼は刺入部位や刺鍼角度、刺鍼深度を誤ると、腸へ刺さり、腹膜炎などを起こす可能性があるため、専門知識や臨床経験が少ないにも関わらず、プロフェッショナルを装っているような似非鍼師の腸骨筋刺鍼は避けるのが賢明である。

 

ぎっくり腰のような症状は数種あり、腸骨筋周囲の癒着が主因であるタイプの場合は、先ずは仰向けで腸骨筋へ刺鍼し、次に多裂筋と大腰筋へ適切に刺鍼する必要がある。大腰筋は太さ0.24-0.25程度の毫鍼で20-30分ほど留鍼すると良い(長さは脂肪層と筋層の厚みを考慮し、60-100mm程度までとする。深刺し過ぎると臓器を損傷する可能性がある)。多裂筋単独での癒着による腰痛は、主に多裂筋下部に多くみられるが、この場合は鈍痛が主体であり、ぎっくり腰のような激しい痛みが出ることはあまりない。腰方形筋と大殿筋上部付近の癒着による痛みは、腸骨稜を境にして上殿皮神経周囲に感じられることが多く、側屈や捻転で痛みが増悪したり、重症は身体が側方へ曲がったようになることがあるが、この場合もぎっくり腰のような激痛がでることは稀である。胸椎下部付近、僧帽筋と広背筋下部周囲(両筋の起始腱膜が重なる範囲)においては、稀にぎっくり的疼痛(ぎっくり背中)がみられることがあるが、この場合も激痛となるケースは少なく、ぎっくり腰のような極端な可動域制限は起こりにくい。大腰筋と腸骨筋は下部で寄り添うように走行していることや、腸骨筋が腸骨に占める表面積が大きいことなどにより、小腰筋と大腰筋、腸骨筋、腸骨周囲での癒着が広範囲で起こると、胸椎下部から大腿上部までの範囲で激しい可動域障害が起こりやすい(安静にしていると癒着の範囲が減少し、完治はせずとも寛解すると考えられる。つまり、癒着の範囲がある程度保持されている限り、ぎっくり腰は完治しない)。特に、大腰筋下部と腸骨筋は、腹部深層で筋腹が腸骨にへばりつくように走行しており、直接触れることができないため、温熱療法や指圧、マッサージなどによって外部から変化を与えることは不可能に等しく、現状では、当院のような長鍼を用いた鍼治療以外では、確実な物理的変化を与えることは難しいと思われる。

 

腸骨筋刺鍼は他部位への刺鍼に比べ、刺鍼時の疼痛(響き)が極めて強い。また、仰臥位での鼠径部付近への刺鍼となり、本能的恐怖感を覚えるためか、刺鍼を拒む患者が少なくない。だが、一度腸骨筋刺鍼を体験し、その劇的効果を実感すると、患者は覚悟を決めて、自ら打って欲しいと申し出るようになることが多い。ぎっくり腰を頻繁に起こす患者ほど、刺鍼時の疼痛(響き)が強いが、極端に腸骨筋が硬くなっている場合は神経の伝導が鈍っていると考えられ、刺鍼時の痛みをあまり感じないケースもある。この場合、数回の施術後に神経の伝導が回復し、徐々に痛みを感じてくるようになることが多い。一般的に、長年、毎年ぎっくり腰が頻発している重度なギックラーにおいては、数回の施術だけでもぎっくり腰が出る頻度が低下するが、生活環境が改善されない場合は、定期的な腸骨筋刺鍼が必要になる。患者によって通院頻度は異なるが、1-6か月に1回刺鍼すれば、ぎっくり腰が起こらず快適に過ごせる、というパターンが多い。当院ではこれまで多くのぎっくり腰患者を診てきたが、腸骨筋刺鍼を数回施した患者からは、「もう何年もぎっくり腰を起こさず快適に過ごせています。先生には本当に感謝しています」と報告されることが多い。日本では一般的に、鍼治療には即効性がないとされるが、これは真実ではない。医師が施術する鍼灸の本場中国においては、刺鍼技術は日進月歩であり、現状でも、適切に刺鍼すれば、難治とされた疼痛や長年の体の悩みも、瞬時に消し去ることが可能である。

臀部痛(お尻の痛み)に伴う症状は深鍼以外では完治しにくい

現代人は運動の過不足、精神的ストレスの増加、食生活の変化などにより、日々様々な身体の不快感や疼痛に悩まされている。特に、ここ十数年、パソコン作業の増加によって、臀部痛や下肢の異常感を訴える患者が増えてきた。

 

下肢のしびれは、腰椎変性による馬尾神経の圧迫によっても起こるが、殿筋の慢性的な炎症や萎縮、筋膜、神経、血管、骨膜周囲の癒着による神経症状もよくみられる。

 

例えば坐骨神経の支配領域に沿って現れる疼痛やしびれは、一般的には糖尿病やビタミン不足、重金属中毒、椎間板ヘルニア、変形性椎弓間関節症、脊椎分離症、脊椎すべり症、脊柱管狭窄症、前立腺腫瘍、子宮内膜炎、股関節脱臼、骨盤骨折、骨盤骨腫瘍、外傷、梨状筋症候群などが主な原因とされる。病院では原疾患があればその治療が優先されるが、疼痛やしびれに関しては、鎮痛消炎剤や筋弛緩剤、ブロック注射などによる薬物療法など主となる。しかし、実際のところ、坐骨神経痛を訴える患者が有名な某整形外科にて受診し、ブロック注射を50回ほど打ったものの、ほとんど改善せず、当院で鍼施術した結果、数回で完治した例がある。

 

また、島根県松江市で私が鍼灸院を開業していた頃、ひどい坐骨神経痛を訴える患者が近所の鍼灸院へ行き、日本特有かつ古典的な打膿灸を臀部にいくつも施術されたものの、痛々しい、直径20mmほどの灸痕を臀部に残しただけで、全く完治しなかったが、当院で施術したところ、数回で完治した例もある。

 

中国では、灸の熱が加わる深度は皮下10-20mm程度とされており、臀部には灸よりも鍼施術が適していると言われている。実際、浅層で起こる上殿皮神経付近の癒着であっても、深層で起こる梨状筋筋膜と坐骨神経交差部で好発する癒着であっても、それらを灸の熱刺激のみで改善させることは物理的に不可能であることは明らかで、刺鍼による創傷治癒で物理的に減圧し、癒着部の自然な回復を促す方が確実な効果を期待できる。しかしながら、日本の伝統鍼灸流派のように、刃先の丸い、刺入しない鍼や、短く細い鍼では明確な効果は得難いため、中国式の刺鍼法が必須となる。


もちろん、ヘルニアや腫瘍、脊柱管狭窄症によるオペ後の金属固定部の癒着など、腰椎に器質的な異常が見られる場合は、鍼灸治療が適合しないケースもある。だが、器質的異常がみられなければ、適切に刺鍼することで完治する殿筋および下肢の症状は多い。

 

当院において、頭痛の次に治療成績が良いのは臀部痛(お尻の痛み)や殿筋のコリに対する鍼施術である。ほとんどの患者が1~5回程度の施術で完治するか、劇的な変化を感じることができる。ちなみに、殿筋側面(小中殿筋付近)はフォンフォッホシュテッター三角と呼ばれ、大きな神経や血管が通っていないため、安全かつ効果的に刺鍼できる。
 
中殿筋には片足立ちになった時、体重の5-6倍の荷重がかかるとされ、小中殿筋は殿筋全体において、最も癒着が起こりやすいポイントである。赤外線または施灸による温熱刺激や、指圧・マッサージ刺激などによる、外的刺激の影響を受けにくい深部筋肉の筋膜や骨膜周囲では、癒着などの変性が起こりやすく、症状が固定化したり、瘢痕化のような状況に陥るケースがみられる。例えば、長年の殿筋のコリを放置していた影響で、椅子に長時間座っていられないとか、毎日就寝時に殿筋のコリが気になり、テニスボールなどでゴリゴリしてみるものの、一向に症状が改善しないどころか年々悪化する、というケースも珍しくない。そもそも、臀部は脂肪および筋層の厚みが6-10cm程度に及ぶため、指で強く押したり、熱い灸を据えたり、強烈な赤外線で温めても、最深部のコリや癒着などの変性を完全に取り去ることは物理的に不可能である。
 
殿筋のコリは放っておくと、筋肉の癒着や張力、萎縮、局所的虚血などが、周囲の組織の代謝を悪化させ、いずれは股関節の異常や大腿骨頭、臼蓋などの変性を来たす可能性がある。また、歩行や姿勢の異常によって、頸部や背部の慢性疼痛や変性、ゆがみなどが併発する可能性がある。すでに変形性股関節症や先天性の股関節症、股関節脱臼などがあった場合、刺鍼しても中々改善が見られないケースが多いが、早期かつ定期的に刺鍼しておくことで、QOLを大幅に改善し、股関節の寿命を延ばすことが可能となる。

首と背中への定期的刺鍼でQOLを大幅に向上させる

頸椎は腰椎と同様、身体における根幹である。特に頸椎は、脳の一部である脊髄が直下へ向かう最初の通過点であり、頭部と体幹部をつなぐ、重要な連絡路であり、様々な大小血管、神経が密集している。

そのため、頸部(首)の異常は、頭部および顔面部の慢性的な虚血や炎症に伴う頭痛(片頭痛)、眼精疲労、眼圧異常、眼のかすみ、まぶたの痙攣、チック、鼻炎、鼻詰まり、鼻水、花粉症様症状、耳閉感、突発性難聴、耳鳴り、鼓膜の異常、顔面麻痺、三叉神経痛、下まぶたのクマ、口唇ヘルペス口内炎、喉の腫れや痛み、めまい、メニエール病、平衡感覚の異常、乗り物酔い、ニキビ、アトピー性皮膚炎、腫瘍などの原因となるだけでなく、体幹部や四肢の異常、呼吸器疾患など、様々な全身症状の隠れた病巣となりやすい。それゆえ、巷には「すべての病は首に原因がある!」と謳う治療家も少なくないが、あながちウソとは言えない。

しかし、頸椎異常の根本原因は、主に急性外傷や精神的、肉体的ストレス、過労などによる軟部組織の局所的な炎症である。症状が固定化している場合は、多かれ少なかれ、軟部組織に癒着が起こっており、「頸椎に歪みがあるから矯正する必要があるんじゃ!」などと言って、整体や整骨、カイロプラクティック的な手技により、ゴキゴキと音がするほどの衝撃を頸椎に与えた場合、癒着部周囲の軟部組織の内圧が高かったり、筋組織が萎縮した状態のままで骨が強制的に移動することになるため、結果として、頸椎は不可逆的損傷を負う可能性が高い。

実際、総務省が令和2年11月にまとめた『消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として-  結果報告書 』(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.soumu.go.jp/main_content/000717043.pdf)によれば、事故情報データバンクに登録された事故情報(平成30年4月10日現在)を総務省が独自に集計した結果、平成26年度から29年度までの4年間で、医業類似行為等によるものは計3,678件(医業類似行為1,534件、エステティック2,144件)あったとされる。

総務省『消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として-  結果報告書 』より引用

注目すべきは、これらの事故の分析結果であり、医業類似行為による傷病内容は、上図のとおり、分析対象とした1,534件のうち、「神経・脊髄の損傷」が274件(17.9%)と最も多く、次いで、「擦過傷・挫傷・打撲傷」が181件(11.8%)、「骨折」が134件(8.7%)となっている。これらの事故は医療類似行為に多くみられる無鉄砲な手技によって、無理に筋肉をほぐそうとしたり、強引に骨格を矯正しようとしたことなどが影響したのではないか、との趣旨で、総務省は結論付けている。

もちろん、日本においては、鍼灸も医業類似行為であり、鍼灸師による事故も少なからず報告されているが、多くの事故は民間資格者の無知や勘違い、思い込み、過信などに起因するところが大きいと考えられる。

したがって、頸部損傷や肋骨の骨折などのリスクを考えると、頸部や背部の慢性的な異常感や疼痛に悩んでいたとしても、激しい手技を用いた治療は避けるのが無難である。強もみしたり、無理に関節をゴリゴリ鳴らせば、関節腔内の圧力上昇によって生じていた気泡が割れ、瞬間的な減圧作用で楽になったような気がしたり、同時に脳内麻薬が放出されることで、あたかも効いたかのような錯覚に陥ったり、強刺激による快感を覚えるのかもしれないが、数日後には元の木阿弥である。何より、悔やんでもすでに時遅し的な、不可逆的損傷を負う可能性も少なくない。

当院では健康維持のため、首(頸椎)から背中(胸椎下部)あたりまでの定期的な刺鍼を推奨している。なぜなら、前述したように、頸椎と胸椎は脊髄を内包する身体の要であり、神経根や大血管を要する身体のいわば幹であり、末梢の状態を司る第二の脳に等しいからである。

鍼治療は、適切に刺鍼すれば、副作用がほとんどなく、体調の維持やアンチエイジング、疼痛の緩和、精神や自律神経の安定などに最も有効な施術の1つである。30歳以降は老化が始まり、代謝が低下してくるため、10代の頃のように寝たら回復するという、当たり前だったリカバリーが徐々に失われてくる。そのため、日々の食事改善や適度な運動、メンタルケア、ストレスコントロールなどに加え、定期的かつ効果的な鍼施術を取り入れることで、より快適で有意義な人生を送ることが可能となる。

線維筋痛症(FMS/筋筋膜性疼痛症候群/MPS)は適切な鍼治療で改善する

疫学:慢性の軟骨組織のびまん性疼痛を特徴とした疾患。アメリカリウマチ学会が公表している診断基準に基づき、18箇所のうち11箇所に圧痛が見られた場合、線維筋痛症と診断することになっている。20~60歳の女性に多い。リウマチ性疾患に合併することがある。維筋痛症(FM)の病因を中枢か末梢かで区分すると、現在では中枢(脳の機能異常)にあることは異論がない。実際、FM患者の抹消神経、筋、腱などには病理学的異常が認められないとされ、痛みのブレーキとなる下行性疼痛抑制系の異常であることが指摘されている。この経路には脳内モノアミンであるセロトニンノルアドレナリン双方の低下が関与している。過去に、脳に何らかの強い痛みが感じられた場合、脳がその痛みを記憶するが、その後も継続的に強い痛みを感じると、中枢感作を介して脳内で痛み刺激が累積してゆく「wind up」という状態が起こる。最終的には痛覚過敏の極限状態であるアロディニアという状態(風が吹いただけでも痛むような状態)に至る。アロディニアはFM以外にも慢性疲労症候群顎関節症、舌痛症、歯痛症、原発性月経困難症などにもみられる事がある。

原因:不明。

一般的な治療法:安心させる。鎮痛薬、抗うつ剤マイナートランキライザー漢方薬ケタミンオピオイドフェノバルビタール、交感神経遮断薬、メキシレチンなどの投与、運動療法心理療法理学療法、神経ブロック療法、星状神経節ブロック、光線療法など。非ステロイド抗炎症薬やステロイド薬は通常無効とされている。2023年現在も決定的な治療法は存在しない。

当院での治療法線維筋痛症(FMS)は現代病の最たるものですが、医学的には原因不明で、2023年現在でも有効な治療法は発見されていません。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の病態は、線維筋痛症に近似しています。線維筋痛症が認知されるようになったのは、2000年代に入ってからで、南山堂の医学大辞典に載るようになったのは2006年以降のようです。当時は北陸の某ペインクリニックで鎮痛薬を打つことが患者にとっての唯一の頼みの綱だったようですが、私の師匠である北京堂鍼灸代表、浅野周先生が線維筋痛症患者を受け入れ始めてから、「ペインクリニックよりも北京堂で施術を受けた方が楽になる」との評判が患者同士のウェブ上のコミュニティで話題になり、2010年頃から、北京堂へ来院する線維筋痛症患者が増えるようになりました。しかし、北京堂で施術しても完治する患者は稀で、施術後3日程度は症状が寛解するものの、数日すれば元の木阿弥、というのが多くのケースにおける実際の状況でした。北京堂では最初はマニュアル通りに刺鍼し、効果がなければ針の本数を増やしたり、より長く太い針を用いる、というのが定番の治療法でした。当院でも師匠の教え通り、数年間はそのように施術していたわけですが、一定期間施術すると、治りにくくなってくる患者が少なからず出現することがわかりました。そこで、当院では良い刺鍼法を考え出せるまで、3年ほど線維筋痛症の患者の受け入れを断っていました。しばらくの間、最新の中医の刺鍼法などを研究しつつ、様々な刺鍼法を試した結果、2021年4月頃に、従来とは全く異なる刺鍼法を考え出しました。そして、この刺鍼法が本当に効果があるのかを試すべく、他の北京堂系鍼灸院を5年ほど放浪し、10人以上の鍼灸師の施術を受けてきたという、「線維筋痛症患者四天王」と呼ばれていた最も難治な某患者の治療を開始しました。この某患者曰く、5年間ほぼ毎週治療しても全く変化が見られなかった肩や臀部、背中の痛みが当院の3回程度の施術で明らかに変化し、施術後3日経っても元の状態に戻るということはなくなり、徐々にではありますが、明らかな改善を実感していただけるようになりました。詳しい刺鍼法についてはここでは述べませんが、この刺鍼法を用いれば、これまで治せなかった患者も治せるのではないかという思いが確信になってきています(2020年時点)。また、顎関節症(食いしばりや歯ぎしり)が、かなり繊維筋痛症に影響しているのではないかと、2021年の5月頃から考えるようになりました。顎関節症の主な症状は、歯を強く食いしばることによる側頭筋の痛み、顎の痛み、開口時のクリック音、開口障害などですが、副次的な症状として手足の冷え、イライラ、不眠、自律神経失調などもよくみられます。ある病院での実験によれば、食いしばりや歯ぎしりが常態化した患者は、サーモグラフィ画像で全身の状態を観察すると、手足の体温が低下していることがよくあるそうです。これはつまり、食いしばりや歯ぎしりによって交感神経が優位になり、末梢血管が収縮したことに原因があると推察されますが、これらが常態化すれば、手足の毛細血管が減少したり、造血機能が低下したり、慢性的な血液循環不全が起こり、手足の冷えだけでなく、手足の肌荒れ、爪の異常、汗疱(異汗性湿疹、主婦湿疹)、易感染(蜂窩織炎)、そして原因不明の全身の疼痛(線維筋痛症)、交感神経異常による全身の掻痒感やしびれ、発汗異常、睡眠障害自律神経失調症などが起こりやすくなるようです。したがって、歯ぎしりや食いしばりが常態化した患者においては、以上のような症状は、薬物治療、局所的な治療、対症療法的な治療で完治することは難しく、顎の治療を最優先しない限り、進展がみられないことがよくあります。師匠とたまに会うと、いつも線維筋痛症の患者の話になるわけですが、師匠は線維筋痛症の原因は首や大腰筋にあるのではないかと考えているようです。しかし、私は古代に線維筋痛症のような病態が見られなかったことから、これは明らかに現代病であり、ワクチンや農薬、食品添加物、その他様々な薬物が強く脳内に影響し、中枢の異常を引き起こしているのではないかと考えています。特に、薬物などに含まれる水銀やアルミニウム(アジュバンド)などの重金属類や、劇薬であるホルムアルデヒド、その他の薬品やサプリメント食品添加物の原料となる石油やGMOなどを、毎日微量でも摂取し続けることによって、血液中の毒素の残留濃度が高いまま維持され、様々な炎症反応を引き起こす主因になっているのではないかと推察されます。例えば自己免疫疾患や膠原病アトピーなども線維筋痛症と同様に現代病と言えます。もちろん、ガンも医学的に言えば炎症の成れ果てですから、現代病と言えるかもしれません。近年、中国では疼痛性疾患に特化した頬鍼療法など、様々な刺鍼法が開発されており、当院でも研究を続けています。2023年12月現在では、当院の評判を聞いた線維筋痛症患者が徐々に増え、治療成績も今までにないくらい向上しており、日常的な痛みはほぼ無くなった、という患者も出てきました。線維筋痛症におけるセロトニンノルアドレナリンの低下、中枢感作を介したwind up、アロディニアなどを考慮すると、刺鍼による断続的侵害刺激が過剰であれば、脳はさらに疲弊する可能性があります。つまり、無鉄砲な刺鍼や手技は症状を悪化させる可能性があるため、刺激量を慎重にコントロールし、疼痛が認められる部位を確実に減圧してゆく必要があります。また、膠原病繊維筋痛症も癌も偏頭痛も腰痛も眼精疲労潰瘍性大腸炎も腱鞘炎も肩凝りも、様々な病態の根底に共通するのは炎症であって、患者自身も、日常的に、如何に体内で炎症を起こさせないようにするかについてもよく考慮しなければなりません。まずは炎症を起こす可能性のある物質についての正確な知識を得て、それらを極力摂取しないようにすることなどが必要です。慢性化により痛みの記憶が脳に強く残る場合は、認知行動療法などを併用する事が重要ですが、当院の鍼施術を週1-2回のペースで数か月ほど試し、ある程度動けるようになったら、10-30分程度の軽い有酸素運動や筋トレなどをリハビリ的に併用すると、元々外出できるようなレベルの病状であれば、日常的な痛みが劇的に減る可能性があります。ちなみに、英語のサイトですが、慢性疲労症候群CFS(Chronic fatigue syndrome)についての記事はこちらが参考になります。